第１３６２回　台風コロッケ

「台風コロッケ」この言葉を検索すると「台風が接近・上陸している際に、コロッケを買って食べるという日本のネット上を中心とした風習である。電子掲示板“２ちゃんねる”を発祥とし、Twitterを通じて広がった」と書かれています。2001年8月21日の昼過ぎに、2ちゃんねるのニュース速報版に、「台風11号パブーク上陸秒読み実況スレッド14号」というスレッドが立ち上がりました。その中で「台風上陸に備えて念のため、コロッケ16個買ってきました。もう3個食べてしまいました」という書き込みがなされ、そこから“台風が接近するとコロッケを買う」というネタが生まれたのです。このネタはしばらくは大きな広がりを見せずに、２ちゃんねるの常連たちだけの風習でした。それが2012年6月の台風4号の時に、Twitterのトレンドワードにランクインしたことで、ネットメディアが取り上げるようになって、広く知られるようになりました。この時期に「ねとらぼ」が300人にアンケートを取ったところ、台風コロッケを以前から知っていた人は、5割、最近知った人は2割、台風4号が来た日にコロッケを食べた人は、3割でした。その後、2010年代の中ごろから、スーパーマーケットや弁当屋で台風が接近するとコロッケの値引きや特売などが行われて、台風接近とコロッケの販売数には、明らかな関係性が認められるようになりました。

そう言う私自身、この言葉は今まで知りませんでした。私は今回、「台風が来ると不謹慎だけどワクワクする」とか「台風が近づくとテンションが上がってしまう」という話が、ネット上にいくつか書き込まれていたことから、その状況を調べてみました。すると災害をもたらす台風の接近をまるで“お祭り”のように興奮している人が一定数いることが分かりました。その一つの流れとして、「台風コロッケ」という現象も広がりを見せていたのです。

　確かに台風によって家や財産を奪われ、命さえ落としてしまうことがあります。そう考えると台風を“お祭り”と同一視することは不謹慎です。ただ、私も子供の頃には、台風接近の緊急ニュースを見ると、確かにテンションは上がっていました。ニュースを見るたびに表示される中心気圧が、下がれば下がるほど興奮します。停電に備えて懐中電灯やラジオを用意して、家の周囲のものが飛ばないように、片づけたりロープで縛ったりしながら変なテンションになってたことは否めません。災害時にワクワクする心理について、専門家は「災害のような社会的危機状況下でワクワクしてしまうことは十分にあり得る」とした上で、その理由について次のように述べています。

　「台風により警戒を促すニュースが流れ、さまざまなイベントが中止になり、学校が休校になったりします。こうした非日常的なシチュエーションにみなが緊張することで、人間の集団は興奮状態に陥りやすくなります。その興奮をワクワクと感じる人がいます」

　確かに子供の頃に、学校の緊急連絡網から電話が入ると、そのことに緊張すると共に、興奮したのを覚えています。台風のように社会全体に緊張と興奮が広がる状況になると、それは“家の中”という守られた環境にいる私にもひしひしと伝わってきました。また、自分の安全は確保されていると思える状況だから、不謹慎とは感じながらも心のどこかでワクワク感を感じていたのだと思います。

　私はいつも人と人とのコミュニケーションは「文字や言葉ではなく気持ち（思い）が伝わっている」と話しています。人間には思いを発信するアンテナもそれを受信するアンテナも備わっています。それが個人の範囲を越えて、社会全体に広がるものならなおのこと、その思いは私たち個人の気持ちに働きかけてきます。今回「台風コロッケ」の記事を読んでそのことを強く感じました。

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