第１３６１回　呼び込まれる（２）

私は臆病なほど慎重に車を運転して予約していた旅館に着きました。古い旅館でしたが旅館の周囲には神社仏閣がたくさん建てられています。露天風呂の先にも立派なお寺があります。スマホで調べると真言宗のお寺で、不動明王をお祀りしています。幸い露天風呂には私以外は誰も入っていません。私は不動明王のご真言を中心にさまざまはご真言、お経を唱えて、廃神社から背負ってきた悪念を時間をかけてきれいに落としました。私は自分の感覚を研ぎ澄ましましたが、もう何か悪いものが憑いている感じはしません。ナビが私がもっとも行きたくない場所へ、クネクネした道を通りながら案内したのは驚きです。ただ、東京から320キロ運転して新潟に来た目的は果たせましたから、翌朝は寄り道はせずにまっすぐに東京へ戻りました。そして今回の仕事の依頼者に、実家の横で作業をしている画像を送り状況を報告しました。これで無事に一仕事終わったとホッとしていました。しかし、依頼者から届いたメールはまた予想外のことが書かれていました。私があれだけ確認して行ったご実家ですが、場所が違っていたのです。ナビに入れた住所はその家を示していました。表札は毛筆で書かれていて漢字二文字のうちの一文字は判読できませんでした。しかし、もう一文字は依頼者の苗字と同じでした。そして何よりも画像で確認した特徴のある屋根の形がこの家と一致していました。

　私はすぐにパソコンを開いてグーグルマップを確認しました。しかし、住所を入力して出てきた家の画像は、私の頭に記憶された屋根の家ではありませんでした。私は依頼者から送られた画像なども確認しましたが、私が記憶した特徴のある屋根の家の画像はどこにも見つからなかったのです。私が訪れた家は、ご実家から少し離れた場所にある他人の家でした。廃神社にいる悪霊は、私がそこに呼び込まれた後、直ちに祓うことは分かっていたはずです。ですから私を廃神社へ呼び込む前に、しっかりと作業の足を引っ張っていたのです。具体的には、ご実家とは別の家の映像を私の頭に刷り込んで、私を他人の家へ誘導していたのです。

　除霊や浄霊を行う時に、さまざまな妨害やトラブルが生じることは良くあります。それは除霊や浄霊によって祓われたくない不浄霊が、依頼者や施術者の私のタイミングをずらし、無意識の選択を変えて悪い出来事を引き起こして邪魔をします。今回は私が直接ご実家でご家族とお会いすることができない事情の中で、家を間違えさせて、私の行った作業を無意味なものにしていたのです。

　私はナビの考えられない誤作動によって廃神社へ呼び込まれました。そこで私に憑いた悪念は、その日のうちに、旅館の露天風呂から真言宗のお寺へマントラとパワーを送ってすべて落としました。それで安心して帰宅したのですが、不浄霊は私が廃神社へ着く前に私の感性を狂わせていたのです。本当に腹立たしいことですが、こういったことはしばしば起こります。以前は山梨県の山中に、行方不明者の捜索で入ったときに、気が付いたら「おいらん淵」と書かれた立て札の前に立っていたこともあります。そして強い花魁の霊に囲まれて危うく取り込まれそうになりました。それは毎日、挨拶のように唱えているお経やご真言をぶつけようとした瞬間に、言葉が詰まって何も話せなくなったのです。私は霊的間口が広いので、さまざまなものとつながりやすいのです。しかし、今回のように時間やお金や労力を遣ってやっと完了した作業が、すべて無駄になるような妨害は本当にむなしいです。

　今回の件では作業をした場所が間違っていますから、これでは効果は出せません。こんなことはもちろん初めてです。また近々に時間を作って車で新潟まで行って同じ作業をしてきます。依頼者にはそれまでお待たせしてしまうことになり、大変申し訳ないです。今回のことは大工さんが他人の土地に家を建ててしまったようなものですから、正しい場所にもう一度建て直します。霊の世界は本当に予期しないことが普通に降りかかってきます。

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