第１３５４回　刺激（３）

　私と相談者の間にはしばらく沈黙の時間が流れました。私はしばらく待ってから、黙りこくる相談者へ話しかけました。

「人は今、自分が幸せな時は、意外とそのことに気づかないものです。幸せな時間は失ってみなければ実感できません。しかし、失ってからでは遅いのです」

　相談者はようやく重たい口を開きました。

「私は今、自分が幸せだと思っています。でも監督をどんどん好きになって今では毎日、監督のことを考えない時間はありません。それが不幸な未来へ続くって、どういうことなのでしょうか？私は不幸へ向かうために、何か悪い霊に操られているのでしょうか？」

　私は相談者に諭すように話しました。

「刺激です。あなたもご主人と知り合った頃は、時間があればデートをして旅行へ行っていろいろな景色を見てきたでしょう。それはとても刺激的で毎日が楽しかったと思います。お子さんが生まれた時もそうです。子供が生まれた時って、親にしても初めての体験ですから、毎日が新鮮で驚きの連続だったと思います。初めて喋ったり、初めて立ち上がったり、初めて歩いたり、そのたびにご主人と一緒に手を叩いて喜んだでしょう。………でも、人間って、時間が経つとその刺激に慣れて当たり前になっていきます。ですから結婚してもう１０年以上が経過して、ご主人はもうその刺激の対象ではなくなったのです。そして子育ても落ち着いてきて、子供から受ける刺激も薄れてきました。人にもいろいろなタイプがあって、刺激よりも安定を求める人もいます。ただ、あなたは今は、まだお若いし元気が有り余っています。ですから安定よりも、ドキドキ、ワクワクするような刺激のある時間へ意識が向いています。刺激にもさまざまなものがあります。お酒やギャンブルも刺激を求める人がハマりやすいものですが、その中でも恋愛は最も刺激が強いのです。ですから刺激を求める人は、お酒やギャンブルにハマって身を持ち崩したり、恋に落ちて人生のレールを踏み外す人が多いのです。ですからあなたが監督を大好きになったのは、悪霊でも誰のせいでもなくて、あなた自身がそう言う時間を求めていた中で、たまたま監督と出会ったのです」

　相談者は時々頷きながら私の話を聞いていました。

「………でもシュンさん、私がそういう刺激を求める人間だということは、もし、監督の熱が冷めても、また何かの刺激を求めて道を踏み外す可能性があるのでしょうか？」

　そういって私を覗き込んだ相談者に私はハッキリと答えました。

「おっしゃる通りです。安定した穏やか時間があるのに、それに満足することなく、わざわざリスキーな道へ進む可能性はまだまだあります。ですからそれは自分を不幸にする“悪魔のささやき”だと強く認識して、刺激に流されないように注意してください。ですから変な例えですが、スポーツでも入試などの勉強でも高い目標を目指しているときに、先生やコーチから“恋愛禁止”だと言われるケースがしばしばあります。若いころは安定よりも刺激へ流されやすくなります。そこで恋愛に走ってしまうと、恋人同士で励まし合って上を目指すのではなく、恋愛にハマって目標を見失ってしまうケースの方が圧倒的に多いからです」

　相談者はすぐに私に尋ねました。

「思い当たることはたくさんあります。私の未来に特に何か注意しなければならないものはありますか？」

　不安げに私を見つめる相談者に一言答えました。

「ただ、年齢と共に刺激を求めていた人たちも多くは、安定や穏やかな時間を求めるようになっていきます。それは年齢と共にドキドキ・ワクワクをしているだけのパワー（気力・体力）が落ちて行くからです。あなたも時間の経過とともに嫌でもそうなっていきます。ですから今回のことを良い教訓にして、自分の心の動きにはまだ当分は気を付けるようにした方が良いでしょう。そうすればあなたは落ち着いた幸せな人生を歩むことはできますから」

　私はそう答えて相談者と別れました。

【２０２２年９月１日から、紀伊國屋書店をはじめとする全国の書店、インターネット書店（アマゾン・楽天など）で、シュンさんの本が発売になりました。「地球はどうしてできたのか」「人類はどうして誕生したのか」「霊界の仕組みや構造はどうなっているのか」そして「幸せに生きるすべはどのようなものか」、シュンさんがさまざまな体験に基づいて明確に答えています。悪質な”霊感商法”が問題になっている今だからこそ、霊や霊界について正しい知識を身に付けて、悪徳業者を見分けるポイントを把握してください。