第１３４８回　穏やかに生きる（１）

　昨日はそれまで続いていた施術や浄霊が前日までに終わり、重い病気の方の治療を成功させるために、早朝から都心にある国立病院まで祈祷に行っていました。治療は午後3時前に終わりましたので、それから夕方に帰宅して寄せられている問い合わせへお返事したり、メール鑑定の回答を作成していました。それらの作業も夜10時半には終了しました。昨夜は家から30分ほど離れた都内の繁華街で学生時代の友人たちが久しぶりに集まってお酒を飲んでいました。私は時計を見て、友人たちの酒席がまだ盛況であることを確信して、久しぶりに彼らの席へ合流しました。

　私はもう10年以上もお盆も正月も休みなく働いていますので旅行など長期の休みを取ることはありません。たまに翌日の仕事が比較的楽だったり、仕事開始が遅いときに、近場でお酒を飲むことが1年に数回あります。私は今日の仕事は珍しく夕方スタートですので、昨夜は思い切って出かけることにしたのです。ただ、酒席というものは、途中から参加するものでは無いとつくづく思いました。学生時代からもう40年以上の付き合いのある仲間ですから気心は知れています。しかし、夜８時ごろから宴会を開いていた彼らは私が到着した11時には、すでに出来上がってベロベロになっています。仕事帰りで素面（しらふ）の私は、彼らのノリには付いていけません。すぐに2軒目へ場所を移して、改めて宴会が始まりました。私は好きなウイスキーをロックでぐいぐい飲みながら、懐かしい友人と他愛のない昔話をしては大笑いしていました。

　するとその友人と反対側の隣に座っている友人二人が、酒でハイテンションになったせいか、かなり大声を出して世界情勢や政治の話をしています。それは傍（はた）から見ると会話ではなくて“口論”です。お互いに自分の主張は譲りませんから、議論はますますヒートアップしてこのままではそのうち喧嘩になるのは明らかです。私は仕方なく二人の会話に割って入り、お互いの主張の要点を整理しました。そしてその根拠をたずねてお互いの主張が正当であることを後押ししました。その上で何で正当な主張なのに、それがぶつかり合っているのか、その理由を整理して二人に聞かせました。そうすることで二人の主張は決して相容れないものではなくて、主張の本質は同じであること。そしてどちらの方法論も間違っていないことで納得させて二人を鎮めました。その様子を見ていた他の友人が、静かに私に語り掛けました。

　「昔から変わらないな、酒の席ではいつもお前が介護役か仲裁役だもんな。みんなお前には一度は助けられてるよ。でも酒を飲んでまで周りに気を遣うのって疲れないか？もっと自分本位に好き勝手に飲もうとは思わないのか？」

私は彼の質問に笑いながら答えました。

「オレは楽しく酒を飲みたいだけなんだよ、せっかく金と時間を遣って飲んでるのに、怒鳴り合ったり喧嘩をしたんじゃつまらないだろ」

私の答にすぐに友人は聞き返しました。

「そうだよ、楽しく飲むなら周りに気を遣わないで、自分の好きなように飲んだ方が面白いだろ」

私はそう言って私の顔を覗き込んだ友人に話しました。

「オレが周りのヤツらを介抱したり、揉め事を仲裁するのは、彼らを気遣ってやっているんじゃないんだよ。自分が楽しく飲もうと思ったら、自分の周りの奴らも笑顔で飲んでることが必要なんだよ。自分の隣の奴が仏頂面して文句ばかり言ってたらこっちだって楽しく飲めないだろ。自分の周りも笑って飲んでるから、オレも笑顔になれるんだよ。だからオレは周囲に気を遣ってるんじゃなくて、自分が楽しく飲むために“ファシリテイター”のように会話をリードしてる。そして酒席を盛り上げてみんなを笑顔にさせる。むしろ自分勝手なヤツだと思うよ」

　私の話を聞いた友人は、あきれたように笑いながら両手を上へ上げて見せました。（２）へ続く。

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