第１３３０回　気力が体力を凌ぐ（１）

　日曜日（3月24日）に行われた大相撲3月場所では、東前頭17枚目の「尊富士」が、新入幕で幕内最高優勝という110年ぶりの快挙を成し遂げました。110年前と言えば、1914年（大正3年）になります。この年はドイツ帝国がロシアやフランスに宣戦布告をして、日本やイギリスもドイツ帝国に宣戦布告をして第1次世界大戦がはじまりました。そもそも相撲は792年に「健児（こんでい）の制＝奈良時代の末期から軍隊が私物化されて農民の疲弊を招いたために、軍隊を廃止して、それに代わって郡司や富裕者、位の高いものが、子弟を健児として作り出した軍団の制度」から始まったと言われています。今の年6場所制になった近代相撲においては、初めての快挙になります。

　相撲では階級が「十両」から「幕内」に初めて上がることを新入幕と言います。階級が上がれば対戦相手は強くなります。ましてや幕内以上で争う「幕内最高優勝」は、大関や横綱」が参加してきますから、新入幕で優勝することはほとんど不可能なことでした。しかも、尊富士は初土俵から（入門してから）10場所目の史上最速優勝も成し遂げました。今は1年で6場所が行われていますから、入門から2年経たないで幕内最高優勝を果たしたことになります。

　近年は大相撲で活躍する上位の関取（十両以上の力士）は、モンゴル出身者が多かったので、久しぶりの日本人のヒーロー誕生に、このニュースは大いに盛り上がりました。尊富士は1994年生まれの24歳です。青森県北津軽郡の出身で、祖父が草相撲の強豪だったことから、保育園の頃から相撲を始めました。中学生の時には、全国都道府県中学生大会の個人戦で3位になるなど、早くも力を発揮しています。そして相撲の強豪校「鳥取城北高校」～「日本大学相撲部」へ進み、高校時代は、高校総体や選抜相撲大会、国体でも3位と活躍しました。大学時代は全日本大学選抜大会で準優勝、全国学生体重別大会でも準優勝と活躍しました。　　

　そして大相撲に入るに当たり、伊勢ケ濱親方（元横砂旭富士）が同じ青森県出身で、伊勢ケ濱部屋が毎年青森県内で合宿を行っていたことから、中学時代から交流があったこと。そして伊勢ケ濱部屋の横綱「照ノ富士」に、中学時代から目をかけてもらい、鳥取城北高校の先輩であったことなどにより伊勢ケ濱部屋へ入門したのです。

　そして入門後は、史上最速の10場所目で幕内最高優勝を成し遂げただけあって、怒涛の活躍を見せます。令和４年の１１月場所に入門して、最も低い地位の「序の口」で７勝全勝の優勝を遂げて１場所で「序二段」へ昇進します。そして令和５年の１月場所でも７戦全勝で「序二段」優勝を飾り、1場所で「三段目」へ昇進します。すると令和５年の３月場所では「三段目」を６勝１敗で終えて、令和５年の５月場所でまた１場所で「幕下」へ昇進します。幕下では６勝１敗、６勝１敗、５勝２敗、６勝１敗で、４場所で「十両」へ昇進して関取となります。そして今年の１月場所では、「十両」でも１３勝２敗で優勝して、今年の３月場所で東前頭１７枚目として新入幕を果たしたのです。つまり、入門してから「序の口」「序二段」」「三段目」は１場所で通過して、「幕下」では４場所かかりましたが、「十両」も１場所で通過して「幕内力士」になり、同時に「幕内最高優勝」という110年ぶりの快挙を成し遂げたのです。

　ここまで尊富士という24歳の若者が相撲の世界でどれだけ優秀な成績を収めてきたのかを書きました。これはこれで素晴らしい快挙だと思います。しかし、私が尊富士の優勝で感動したのは成績が素晴らしかったからではありません。優勝が決まった翌日の月曜日に、たまたまテレビのスポーツニュースを見た時に、この優勝の裏にあった素晴らしい秘話が伝えられたのです。私は普通は目に見えない世界と日常的にかかわりながら生きています。そんな私からして「なるほど、そんなこともあるのだろう」と感心した話です。前置きが大変長くなりましたが、そのことについて次回でお伝えしたいと思います。（2）へ続く。

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