第１３２３回　解脱

神奈川県鎌倉市にある「鶴岡八幡宮」は、日本３大八幡宮に数えられ、鎌倉幕府を開いた源頼朝が１１８０年に、先祖ゆかりの京都「石清水八幡宮」をこの地に移して祀ったのが始まりと言われています。「鶴岡八幡宮」は初詣には毎年２５０万人を越える参拝者が訪れる人気の神社です。それは東京都「明治神宮」の３１９万人、京都市「伏見稲荷大社」の２７７万人、大阪府「住吉大社」の２６０万人に次ぐ参拝者数です。しかしこの鶴岡八幡宮が、全国の神社を包括する宗教法人「神社本庁」（東京都渋谷区）から離脱することが、今月になって発表されました。神社本庁には全国の神社の９５％に当たる７万８３００社を包括しています。2020年には「こんぴらさん」の愛称で知られる香川県琴平町の「金刀比羅宮（ことひらぐう）」が、“信頼関係が崩れた”として離脱しています。今回の「鶴岡八幡宮」の離脱について、その理由は現時点で公表されていません。

　そもそも「神社本庁」とは、全国約８万社の神社を傘下に入れた日本最大の神道系「包括宗教法人」です。戦後、国家神道の解体を進める連合国軍総司令部から神社を守ることを目的に１９４６年に設立されました。皇室の祖神とされる「天照大神（あまてらすおおみかみ）」を祀る「伊勢神宮」を最も尊い「本宗（ほんそう）」と仰ぎ、「統理（とうり）」と呼ばれるトップが、宗教上の権威であるとともに、法人の代表役員も務めていました。しかし、統理が訴訟などの俗事に関わることを避けるために、７６年の規則改正で、事務総長を代表役員に充てて、名前も「総長」に改称しました。

　宗教上の最高権威である「統理」は、法人役員の中から役員会の議論を経て事務運営の責任者である「総長」を指名することになっています。しかし現在の「鷹司統理（元伊勢神宮大宮司）から新総長の氏名を受けた「芦原氏（元北海道神社庁長）」は役員会で過半数の支持が得られませんでした。そのため再び役員会が開かれて、鷹司統理は改めて芦原総長を指名したものの、規則に従って「田中総長（京都府神社庁長）が、総長職を続行しました。そのため芦原氏が「自分が正当な総長である」と主張して裁判を起こしたのです。本来なら統理から指名を受けた芦原氏が総長になるべきですが、田中総長を推すグループは、「役員会の多数決には拘束力があるため、役員会で過半数の支持を得られない芦原総長は認められない」と主張したのです。

　この問題の背景には2期6年が通例の総長ポストを4期12年務めている田中氏と執行部への不信感が神社界に広がっていると指摘されています。神奈川県川崎市内にある神社本庁職舎の売却では、田中氏の不正を疑って内部告発した幹部職員が、懲戒処分とされました。この件でこの幹部職員が解雇処分の無効を訴えて裁判を起こしました。裁判では最高裁まで争って“処分無効”が確定して神社本庁側が敗訴したのです。そんなこともあっての今回の裁判は3月22日に判決が言い渡されます。

　このことは一言で言えば、総長のポストを巡っての”内紛“ですが、神に仕える者たちの利権が絡んだ騒動を見せられて、多くの人たちは呆れています。人間の欲にはキリがありません。しかし、何十年も神道を学び、全国の神社を動かすトップの行動として、この裁判沙汰は信者の気持ちを白けさせます。日本中の神様の力をもってしても、人の欲望は抑えることができないのでしょうか。トップの皆さんんは、どうかこの問題をスッキリと解決して、本来の自分たちの職責を誠実にまっとうしてもらいたいと思います。

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