第１２８２回　いろいろな人（３）

　また、この社長の会社では、中学を卒業した後、高校へ行かず、仕事もせずに夜遊びをしているいわゆる“不良少年”たちも積極的に雇っています。しかも中卒の不良少年だからといって、給料を安くするわけではありません。見習いとして正当な給料を支払っています。

「シュンさん、アイツらが高校へ行かないで、働きもしないで、毎晩遊び歩いてる理由は、みんなそれぞれが抱えているんだよ。ただ、アイツらの生き方を正そうと思ったら、まずはきちんとした生活を身に付けさせることが一番なんだ。毎朝、きちんと早起きして仕事へ向かう。そして一日しっかり働けば、夜は疲れて眠くなるものなんだよ。アイツらは遊びたい年頃だから、金はいくらでも欲しい。ただ、悪いことして金を手に入れてもすぐに警察に捕まるだろ。それぐらいはアイツらも分かってる。だから捕まらないで金が欲しければ、働くしかないんだよ。だから「バイクが欲しい」とか、「一人暮らしがしたい」とか言ってる奴らには、「だったら働いて金を溜めろ」ってオレは言ってるんだ。そして働いているうちに朝起きて夜寝る生活のリズムができれば、そんなに生活はブレなくなる。そうなれば高校へ通うことも、やりたい仕事のスキルを学ぶこともできるようになる。生活がブレブレのうちは、何をやろうとしたって続かないんだよ」

　私は社長の話に感心して聞き入りました。それは社長の考えは理にかなったものだからです。さらにこの社長には若者の失敗を受け止めて次のチャンスを与える度量の深さもあるのです。何年も不良少年を受け入れていると、中には仕事をいきなりサボったり、現場からいなくなったり、事件を起こす少年も出てきます。たとえば上司に注意されて、逆切れして現場から勝手に帰ってしまった少年がいます。彼は「仕事なんていくらでもある」と啖呵を切ってそのまま会社を辞めてしまいました。しかし、現実に他の仕事を探して見ると、社長が払っている給料でこの少年を雇ってくれる会社はどこにもありません。２～３か月して仕方なく会社にまたやってきた少年は社長や先輩社員に謝罪します。そして「今度こそ真面目に働きますのでどうか自分をまた雇ってください」と懇願します。もちろん上司も先輩社員も全員が大反対です。そんなときこの社長は必ず、少年の前に立って一緒に頭を下げて、「また、面倒見てやってくれないか」と頼んでくれるのです。小さな会社でいくつも現場を抱えていれば、当てにならない従業員を抱えることは、かえって迷惑です。もちろん社長はそのことを分かっていても、その時の少年の思いを汲んで再びチャンスを与えるのです。中には３回、４回とチャンスを与えた少年もいます。それはそれだけ何度も会社を裏切ったことに他なりません。少年が裏切ればその尻ぬぐいはすべて社長に降りかかります。社長はある意味、いずれその少年に裏切られることも承知の上で、その責任は自分が一人で背負い込む覚悟で少年にチャンスを与えているのです。私はこのような経営者を見たことがありません。社長は会社を経営していますが、それはビジネスではなくて人を育てて、社会に貢献する目的で仕事に臨んでいるのです。

　また、あるとき社長の会社へ行くと、現場から帰ってきた職人たちが、事務所の中に置かれた箱の中にペットボトルのキャップとプルタブを分けて捨てていました。私は“珍しい分別の仕方”と思いそのことを社長に尋ねると、社長は笑いながら、

「シュンさん、知ってる？ペットボトルのキャップもプルタブもたくさん集めると、それが車椅子になるんだよ。これでオレらの　　

会社から、もう何台も車椅子を送ったんだよ。誰が考えたのか知らないけど、スッゲーアイデアだよね」

　そう言って嬉しそうに笑う社長の顔には一点の曇りもありませんでした。この社長とは年が近いこともあって、すぐに意気投合しました。彼と私では生きている世界も見ている景色も大きく異なります。でもどこか本質的なところでる通じ合っているのでしょう。人付き合いが苦手な私にしては珍しく、もう１０年以上も親友として付き合っています。

【２０２２年９月１日から、紀伊國屋書店をはじめとする全国の書店、インターネット書店（アマゾン・楽天など）で、シュンさんの本が発売になりました。「地球はどうしてできたのか」「人類はどうして誕生したのか」「霊界の仕組みや構造はどうなっているのか」そして「幸せに生きるすべはどのようなものか」、シュンさんがさまざまな体験に基づいて明確に答えています。悪質な”霊感商法”が問題になっている今だからこそ、霊や霊界について正しい知識を身に付けて、悪徳業者を見分けるポイントを把握してください。