第１２３１回　身代わり（２）

「方法はあります。憑いていた時間が非常に長いので意識や肉体を覚醒するのに時間はかかります。ただ、覚醒できれば、霊の影響は取り除いていますので、浄霊の後のように、また足は動き出すはずです。心身の状態を覚醒させる”施術“がありますから、これを行っていきましょう」

　私の言葉を聞いてお婆さんの目にまた力が戻りました。

「分かりました。どんな施術か分かりませんが、すぐに始めてください。このまま一歩も外に出れないまま死ぬのは嫌です」

そこからお婆さんの心身を目覚めさせるための施術が始まりました。それから私は時間のある時は、お婆さんの家へ通いました。私はお婆さんの前の椅子に座って、心身を覚醒させるマントラを唱えます。私がこのマントラを唱えると、お婆さんの体は目覚めて足も動き始めます。先ほど私が玄関に入ったときは、痛々しく足を引きずって鍵を開けに来たのに、今私の前にいるお婆さんは足を高く上げて、腕を振って、嬉しそうに家の中を歩き続けているのです。その様子を見ると、私も嬉しくなって、気力と体力の続く限り、マントラを唱え続けました。３時間以上も休みなく唱えて、喉がかれて終了した日もありました。そしてこの施術が終わると、お婆さんは足の状態を確認するようにしっかりと床を踏みながら玄関まで私を見送りに来るのです。

～これでもう大丈夫だろう～

　お婆さんの力強い歩き方を見て、そう安心して家路につきました。そして翌日、またお婆さんの家に来ると、お婆さんは止まるようなスピードで足を引きずりながら、玄関の鍵を開けるのです。こんなことを何度も繰り返しました。

「私が帰ってから、何時間ぐらいで足はまた固まってしまいますか？

　私の質問にお婆さんは、

「先生が帰ると、だいたい３時間ぐらいでまた足は動かなくなります………」

そう言ってうつむきました。そしてお婆さんは何かを思いついたように

「先生、ここに１週間でも２週間でも泊って行ってもらえませんか？先生がいれば足は動きますから、先生がずっと居てくだされば、また足が動くような気がするのです」

「………」

　もちろんお婆さんの希望に応えることはできません。私には他にも私を頼りにしている方が何人もいるからです。

「それでは先生の身代わりの人形か何かを置いていってもらえませんか？そうでなければ先生がマントラを唱えている声を録音させてください。それを毎日流していれば、私の足も動くのではないでしょうか？」

　私はお婆さんから目を逸らせて答えました。

「残念ですが、私の身代わり人形を作っても、私のマントラを録音して流しても、それでは効果は出ないのです。私はマントラを唱えながら、足が動くようにパワーや念を送っています。だから足が反応してくれるのです。身代わりの人形や録音した声からはパワーも念も出せません。もし、それが可能なら私もその方が楽で良いのですが………」

　悪霊の影響を受けている人を守るために、その人の髪の毛や気を念じ込めた人形を身代わりに使うことはあります。それは不浄霊に対する有効な方法ですが、身代わりではもっと積極的に心身に刺激を与えることはできないのです。

※現在、YouTubeチャンネルの更新が止まっています。まだ、猛暑が続いているため、なかなか”パワースポット巡り”に出かける気持ちになれません。9月に入りましたので、もう少し涼しくなりましたら、直ちに再開いたします。もうしばらくお時間をいただきますようお願い申し上げます。

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