第１２１５回　怨念

　私は今、“浄霊”という作業を行っています。これは恨み・憎しみ・悲しみなどのネガティブな思いが重すぎて、あの世へ上がることが出来ずに“輪廻転生”のサイクルから外れてしまった魂をあの世へ押し上げる作業です。人は誰でも自分の死に際して、誰かを恨んだり憎んだりすることはあります。しかし、そのレベルが尋常でなく強くなり、その相手を“殺したい”とか相手の子孫を絶やすために”末代まで祟りたい“となったとき、その思いの重さゆえに成仏することはできなくなります。ただ、そうやって300年、400年と誰かを恨みながら現世にとどまり続けている魂は、次第に魂としての形態が壊れていきます。そして魂はやがて”霊的なもの（霊的な物質）“になり、現世で霧散して最後は”無“に帰してしまいます。

　人の魂はさまざまな意味で”成長“していきます。人間の肉体はせいぜい100年か少し生きれば、やがて壊れてしまいます。ですから魂は肉体という”ゆりかご（器）に収まり、そのゆりかごが壊れたらまた別のゆりかごに乗り換えることで、千年、二千年と生き続けることができるのです。それは魂が永遠に成長していくために考えられた素晴らしい“叡智”です。しかし、せっかく作られたこのシステムに乗ってこの世に生を受けながら、強い悪念・邪念、そして人を呪う気持ちは、このレールを踏み外して全ての世界から消滅する“無”の世界へ落とし込んで行くのです。

　分かりやすい例が“平家の落落ち武者”です。「壇ノ浦の戦い」で平家が滅んだのは1185年です。滅ぼされた平家の子孫は、自分たちを滅ぼした源氏一族が絶えること願いました。そして源氏の子孫を祟って家を絶やそうとしましたが、現時点で源氏の血を引く子孫はいくつにも枝分かれして、何万人も生きているはずです。そうなるとこの思いを果たせない平家の落ち武者は、いつまでも現世にとどまり続けて思いを遂げようとします。しかし、すでに838年も経過していますから、“平家の落ち武者”だった霊は、すでにその形をとどめていません。私は最も古い霊として、鎌倉時代の霊と対峙したことがあります。しかしその前の世代の平家の落ち武者は一度も見たことはありません。

　誰かを強く、そして長く恨み続けているうちに、ついには自分の存在自体が消滅してしまうのです。人の因縁とはとても深く複雑に絡みついています。ただ、人をそこまで恨ませるような非道な行いをした人も、死んでもなお相手を恨み続ける魂も、ともに救われることはありません。今回の浄霊でも、人として最悪な非道な行いをした人や、それによって理不尽に殺された浮かばれない魂が苦しんでいます。こういう状況を今まで何度も目の当たりにしてくると、人として正しく生きることの大切さを改めて認識させられます。法律の抜け穴を狙って法の裁きを免れた犯罪者も、被害者の自分に向けられた念（怨念）から逃れることはできません。私はその念（思い）によって天罰が下されたれ例を数多く見てきました。刑務所に収監されている犯罪者が毎夜眠りにつくたびに、うなされて大声を張り上げて、独房へ入れられました。それでも毎夜、夢に苦しめられた犯罪者は、ついに自らの言葉で、他にも「人を殺していたこと」を自白しました。このような事例はいくつもあります。凶悪な犯罪者でも、被害者の怨念にはかなわないのです。今、浄霊を続けながら、人の念の恐ろしさを改めて感じています。

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