第１２１２回　流行らないお店（１）

私は、どうやっても経営が上手くいかないお店から相談を受けたことが何回もあります。それ以外にも、「繁盛する場所にお店をオープンしたいので、どの場所が良いか選んでください」と頼まれて、お店の経営者と一緒に候補になる場所を何軒も探し歩いたこともあります。中にはお店を繁盛店にするために、専門のコンサルタントから経営指導を受けて万全の態勢でオープンしたものの、上手くいかなくなったお店もありました。専門家からコンサルティングを受けると、コンサルタントはその分野のビジネスについては、成功や失敗の事例をよく理解しています。そして成功するためのノウハウも分かっています。ですから高いコンサルタント料を支払っても、成功する可能性は高くなります。そんなコンサルティングを受けてオープンした“高級居酒屋”がありました。そのお店は都心近郊の私鉄の駅前にありました。この駅からは都心のターミナル駅まで電車で30分です。そのため駅周辺には住宅やマンションが立ち並び、それとともに個人商店や大手スーパーもオープンして賑わいを見せていました。この駅の駅前ロータリーに面したビルの2階にその店はオープンしました。駅からの距離は徒歩1分です。駅の改札口を出て、階段を降りると目の前のロータリーの正面にこのお店の大きな看板が目に入ります。看板には「地酒・地焼酎と和食の店」と書かれています。きれいな木目調の看板はスポットライトに照らされてとてもよく目立ちます。ビルの1階はドラッグストアーで、同じフロアには美容院が入っています。そして隣のビルは大手都市銀行の支店が入り、他にはコンビニや個人商店、飲食店が並んでいます。立地は申し分ありません。

そしてお店に目を向けると、木材をふんだんに使った高級感のある作りになっています。広さは約70坪もあります。お店に入ると十数人が座れるカウンターは、木目の美しい“一枚板”が使われています。他にテーブル席、個室が並び、店内にはジャズのBGMが流れています。“女将さん”と呼ばれる店長は、40代前半の女性で着物を着て働いています。フロアマネージャーの女性は30代前半でやはり着物を着ています。他にフロアには従業員が10人ぐらいいて、きびきびと動いています。それはオープンに当たり、飲食専門のコンサルタントから、約1週間かけてきびしく研修を受けてきたからです。そして厨房の中には、都心の高級割烹料理店で料理長を20年間勤めてきた人を専門業者を通じて引き抜きました。このベテランを料理長にして、腕に自信のある若手を下に付けて、自慢の料理が絶妙のタイミングで出されます。お酒は日本酒・焼酎・ウイスキー・ビールなど各種取り揃えて、目玉商品としてプレミアがついて普通は手に入らないものまで仕入れています。そして代金は、大衆的なチェーン店の居酒屋よりも５割程度高い価格設定にしてあります。この内容でこの値段ですから、お店がオープンするとともに連日、数多くのお客さんがやってきました。年配者を中心に、「値段が少し高くても、落ち着いた雰囲気の中で、おいしいお酒や料理を食べたい」というニーズは確実にありました。そして隣のビルの銀行の支店長もすぐにこのお店の常連客になり、接待でも使うようになりました。できるだけ安い料金でお腹いっぱい食べて飲みたいという若者たちとは完全に住み分けが出来ているので、お金に余裕のある人たちで連日ににぎわっていたのです。週末ともなれば予約も取れないほど繁盛していました。お店のオーナーは、自分の狙いが当たったことに有頂天になりました。オープンに向けて、かなりお金をかけたお店ですから、失敗は許されません。オープン直後のこの賑わいをみれば、これからわずか3か月後に、お店の中に“閑古鳥が鳴く”状況を想像することはできませんでした。しかし、オープン当初は混雑していたお店も、本当に3か月後にはガラガラになり、経営的にも赤字が続くようになってしまったのです。そのことについては、もちろん経営指導してきたコンサルタントに何度も相談しました。ただ、このコンサルタントの意見にしたがって作り上げたお店ですから、お客様が急に来なくなったことについて、コンサルタントは明確にその理由を説明することが出来ません。そこでどうしてこうなってしまったのか、オーナーはその原因を特定して、直ぐに改善するために私に相談してきたのです。（2）へ続く。

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