第１２０５回　諸行無常

　私は人は変わっていく生き物だと思っています。それは良い意味でも悪い意味でもです。“諸行無常”という仏教用語があります。それは「世の中のすべてのものは、姿・形もその本質も常に流動変化している。一瞬でもその存在の変わらないものはない」と言う意味です。「諸行」とは、因縁によって起こる世の中のすべての現象を指し、「無常」とは、一切のものは常に変化していて、不変のものはないということです。この言葉の説明でよく使われるのが、鎌倉時代の初期（１２１２年）に、鴨長明（かものちょうめい）が書いた「方丈記」です。それは、次のような文章で始まります。

「行く川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と栖（すみか）と、またかくのごとし」　

この文章を現代語に直すと、

「流れる川の流れは絶え間ないが、流れている水は元の水ではない。よどみの水面に浮かぶ泡は、消えては生じ、そのままの姿で長くとどまっていることはない。世の中の人と住まいも、これと同じである」となります。

　この仕事を長く続けていると、自分以外のたくさんの人たちの人生と向き合うことになります。いろいろな人生に真剣に向き合っていくたびに、“諸行無常”という言葉は、しばしば頭に浮かびます。新婚夫婦が、ラブラブで私に質問をしてきます。彼らの頭の中には、これから二人で生きていく幸せな未来が詰まっています。「将来、子供は３人欲しい」とか、「３０代前半で家を建てたい」とか、「いずれは独立して二人のお店を持ちたい」とか、バラ色の将来に彩られています。そして、どのように進んで行くことが、自分たちの夢を実現する最短コースになるのか、真剣に私に尋ねてきます。でも、私の前であれほどラブラブだった二人も、わずか３年後には、ちょっとした感情のすれ違いから、お互い意地を張り、相手を責めて、いがみ合うようになりました。そしてお互いに浮気をして、離婚することになりました。すべてのものは常に動いているとは言え、あまりにも早く二人の人生のレールは進む方向を変えてしまいました。

　スピリチュアルの世界でも同じです。私に精神世界や霊の世界について尋ねてくる人はたくさんいます。その人たちの多くは、私だけに相談しているわけではありません。他の霊能者と私の意見とその両方を聞きながら、自分にとって良いと思える意見にしたがって進む道を決めるという人もいます。或いは相談する相手を３～４年ぐらいでどんどん変えて行く人もいます。逆にずっと１０年以上も信頼して相談していた方に、少しずつ不信感や違和感を抱くようになって、その人から私に相談相手を切り替える人もいます。そのことに何か後ろめたさを感じている人に、私はいつも話しています。

「あなたはその霊能者からは、きっと卒業する時期に来たのではないでしょうか」と。たとえば小学生の時にすごく的確に自分を理解して、伸ばしてくれた先生が、高校生になっても同じように最高の指導者であることは稀です。中学生や高校生になったら、その自分を理解して成長させてくれる指導者が良い先生です。人は生きているうちにさまざまな経験を積んで変わっていきます。それが当たり前です。自分が変わるわけですから、自分に合う先生も変わって行くのが当たり前なのです。皆さんがお金を支払って質問や相談をする以上、皆さんには回答者を選ぶ権利があります。そのときそのときで、自分にとって有益な回答をしてくれる方に相談することは当たり前です。ですから私に３０年以上も相談を続けている方もいれば、１度相談してそれだけでご縁の切れる人もいます。私も皆さんも常に変化しているのです。

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