第１２０２回　神隠し（２）

　私が行方不明の方を探している中でも、まるで神隠しにあったように姿を消した人がいました。その人は東京都内に住む３０代前半の会社員の男性でした。その人は、実家で両親と兄弟と一緒に住んでいました。ある日、いつものように朝、会社へ向かって家を出ました。会社はバスと電車を乗り継いで１時間ぐらい離れた場所にあります。家を出る時は、特に変わった様子はありませんでした。しかしその日の夜、何時になっても帰宅せず、スマホに連絡しても電話にも出ませんでした。親御さんが心配して会社の同僚に連絡したところ、この日は朝から会社へ出勤していなかったことが分かりました。そのためすぐに警察に捜索願を出して、最寄り駅の防犯カメラを確認しました。すると家からバスに乗って駅に着いた後、普通に改札口へ向かって歩いている姿が写っていました。しかし、会社の最寄り駅の防犯カメラには、この男性の姿は写っていません。この男性は電車に乗った後、会社へは向かわずに、どこか別の場所へ電車で向かったことになります。探偵にも頼んで探したもののまったく手掛かりがつかめなかったので、藁にもすがる思いで私に捜索を依頼してきたのです。

　私はいつものようにこの男性の愛用品を手に取って霊的な波長を頭に刻み込みました。そしてこの男性がいなくなった日の朝と同じように、男性の自宅からバスに乗って駅から電車へ乗りました。この男性の霊的な波長は比較的私に近いものでしたから、追跡は容易でした。男性は会社へ向かう電車に乗ったものの、途中駅で下車して会社とは反対方向の電車へ乗り換えました。そして男性の乗った電車は都心を離れて神奈川県へ入りました。そして横浜駅からＪＲ根岸線に乗って関内駅で降りた後、海の方へ向かって歩いていきます。そして山下公園内を散策してから、石川町駅へ進み、そこで食事を済ませたあと、また根岸線に乗って横浜駅まで戻りました。そこから相鉄線で海老名駅まで行って小田急線へ乗り換えました。そして小田急線を伊勢原駅で降りると、「大山ケーブル行き」のバスに乗ったのです。ここから「阿夫利神社」や「大山登山」を目指すなら、バスを終点で降りた後、「大山ケーブル駅」まで歩いて、ケーブルカーで山頂を目指します。男性はバスを終点でおりたものの、ケーブルカーには乗りませんでした。そこには男性の波長がまったく感じらなかったからです。波長を追うと、男性はバスを降りた後、山の中へ歩いて入っていきます。私は男性の波長を追いかけながら、この人が会社の人間関係や仕事のプレッシャーに疲れ切っている様子が手に取るように分かりました。しかし、家族はこの男性が、希望していたこの会社に入れたことをとても喜んでいました。ご両親はこのことを近所の友人や親せきに鼻高々に事あるたびに話していました。家族にとってこの男性は“自慢の息子”だったのです。そしてそのことを男性自身もよく分かっていました。だから今、この会社で働くことが、逃げだしたいほど嫌になっていることを口にすることはできませんでした。そのためこの男性は、この日発作的に会社へ向かう電車から降りて、反対方向へ向かう電車に乗り換えたのです。そしてともかくビルが立ち並ぶ都会を離れて、自然の中へ身を置こうとしたのです。横浜は海はありますが、あまりにもその近くにビルが立ち並んでいます。そのため横浜で海を見た後、山へ向かう相鉄線に乗り換えて山を目指したのです。

　この日の私の捜索はここまで来て日も暮れてきましたので、一旦ここで打ち切りました。そしてここまでの状況をご両親に説明しました。そして他の仕事も詰まっているので、３日後にまた、ここから追跡していくことを伝えました。その間にご両親は、伊勢原駅の駅員やバス会社の運転手、また周囲のお店の従業員に男性の写真を見せて、息子さんの足取りを追いかけました。すると大山のバス停の近くのお店の人が息子さんのことを覚えていていました。そのことでこの男性がこの日、会社へは行かずに神奈川県の大山まで来ていたことが確認されました。私はその報告を聞いて、俄然、やる気が出てきました。都心から大山まで来たことが間違いないなら、私はこの男性の波長としっかりと同調できていたことになります。それならバスの終点から波長を追って山の中へ入れば、きっと男性を見つけられると思ったのです。（３）へ続く。

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