第１１９３回　霊感（４）

　同じような話はたくさんあります。大学を卒業して新卒で社会人になったお嬢さんも、霊的な間口が広くて、人の言葉よりも本音を感じ取っていました。そのため入社してまだ半年しか経っていないのに人間関係で悩むことが多く、私に相談してきました。

「私は以前から人の本音が聞こえてきて、その人の言葉と本音のギャップに悩まされてきました。今の会社では、私の指導係になっている４０代の女性係長と、３年先輩の女子社員が、ものすごく私に対抗心を持っていて困っています。特に係長は、私を見る顔は、他の人を見る時と別人のように変わります。本人はそのことに気づいていないようですが、本当に恐いので、私は距離を置きたいのです。それでも指導社員ですし、たくさん話しかけてくるので、それを無視できません。私は彼女たちと上手く付き合っていくことができるのでしょうか？」

　霊的な間口が広くなると、誰もが悩む問題です。私たちは社会の中で生きていますから、相手の本音を知って、辟易（へきえき）することがあっても、それでも表面上は上手く付き合っていかなければなりません。

「その係長はあなたのことをどのように思っているのですか？」

私は率直に尋ねました。

「ともかく若い女子が嫌いみたいです。私は薄化粧ですし、服装も特に派手にしているわけではありません。ただ、係長からは仕事を教わったり、ランチに誘っていただいたりしますが、私のすることはすべて気に入らないのです。優しく話かけられても、その裏では“何回教えれば分かるのよ！頭が悪いわね！会社は仕事をする場所で、男あさりに来てるんじゃないんだから、チャラチャラしたその恰好を何とかしなさいよ！”そんな心の声が私に響き渡ります。そんなことが毎日、何回も続くので、会社へ行くのが怖くて仕方が無いのです」

相談者はそう言ってうつむきました。また、同じ部署にいる３年先輩の女子社員からは、

「あんたなんかに絶対に負けないから。男性社員に色目遣って、いやらしい女！若いからって社内で女を出すのはやめなさいよ、みっともない」

この先輩社員も口では、いつも優しく

「会社のこと、何か分からないことがあったらいつでも訊いてね、あなたみたいな後輩が入ってきて本当にうれしいの。何でも教えてあげるわ、今度一緒に食事でも行きましょうよ！」

笑顔でそう話しかけてくるのです。霊的な間口が広がってくるとこのギャップに皆さん、悩まされます。その結果、長年の友人やパートナーとの関係が悪くなり、離れていくケースが多いのです。

　考えてみれば、会社や学校という小さなコミュニティでも、社会全体でも、人は本音と建て前を使い分けることによって、表面上の人間関係を保っています。“二枚舌を使う”という言葉は、“嘘をつく”とか“矛盾した発言をする”という悪い意味で遣います。ただし、もし私たちが常に本音で話をしていたら、世の中のあちこちでケンカや諍いが続いて収拾のつかない状態に陥るでしょう。ですから私も大人になるにつれて、自分の持っているこの感覚を保ちながら、社会の中で人と上手く関わっていく“すべ”を身に付けていきました。私は表面上はコミュニティの中でも社会の中でも普通に暮らしています。しかし、本音を言えば、心の中に人間に対するぬぐえない不信感があって人付き合いは得意ではありません。非常に疲れます。ですから霊的な間口の広い人＝霊感の強い人は、嫌でも“自分なりの処世術”を身に付けて行かないと、社会の中で上手く生きていくことが難しくなってしまうのです。

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