第１１６１回　目に見えるもの

　霊はほとんどの人には見ることが出来ません。しかし、日常的に霊体験をしている私たち“霊能者”でなくても、何かのタイミングが合ったときに、幽霊を見たり霊障を受けることがあります。よくテレビで放送していた「心霊番組」で、タクシーの運転手さんの心霊体験は多くの人が見たことがあると思います。雨の降る夜に、人通りの少ない郊外の裏道で、傘も差さないで立っている女の人を見かけます。その女性はタクシーを見て手を挙げたので、不審に思いながらも女性の横に車を止めてドアを開けます。すると女性は小さな声で「〇〇墓地まで」と言います。不気味に思いながらも運転手さんは車を走らせて、〇〇墓地へ向かいます。車中では運転手さんが何を話しかけても女性は返事をしてきません。振り向くと女性は後部座席にうつむいて座っています。

～眠っているのだろうか～

そんなことを思いながら、ふと気になってルームミラーで後ろを見ます。すると座席に座っているはずの女性がミラーには映っていません。あわてて車を止めて、後ろを振り返ると車に乗っているはずの女性の姿はありません。ただ、後部座席は水を打ったようにびしょびしょに濡れていたのです。だいたいはこのような話です。

　このケースでは運転手さんには見えていた女性が鏡は認識していません。鏡は何かの物体がそこにあれば、当たり前に映り込みます。それが映らなかったということは、後部座席に物体としての女性はいなかったのです。それでもこのとき霊と同調した運転手さんには霊の姿が見えたのです。霊は肉体がありませんから、物体ではないのです。この類の話にはその逆もあります。鏡には映っていたのに、直接見るとそこに物体（人や物など）はなかったというケースです。鏡は魔界や異界とつながっていると言われていますから、鏡を通してパラレルワールドとつながったのかもしれません。

　同じように影も異様に見えることがあります。影は日光でも蛍光灯でも、何か光を遮るもの（物体）があって影を作ります。その物体の形状が変化しないかぎり、理屈で考えれば影の形が変わることはありません。しかし、私は影の色がその人の影だけ異様に薄かったり、変形していたり、じっと座っているのに動いているような場面を何度も目撃しています。先日も電車に乗って正面の座席に座っている女性と何気なく目が合った瞬間、この女性が“ニヤリ”と口元で笑いました。私は左手でポケットの中に入れているパワーストーンを握りながら、すぐに視線をそらしました。この女性に不浄霊が憑依していることは明らかでした。もし、もう一度目線が合ったりすれば、私に載ってこられる危険があるからです。私は電車内でずっと横を向いているのも変ですから、正面を向いたまま視線をその女性の足元へ移しました。足元にはこの女性の影がくっきりと映っていました。何気なく影を見ていると、両耳の部分がどんどん伸びて長くなっていきました。そして髪型と頭の形が悪魔のように変形していきました。そして両手の影はまるで踊りでも踊っているように、ゆらゆらと回り始めたのです。これはこの女性に憑いている不浄霊が私が“見える人間”だと分かった上で挑発してきたのです。私は仕方なく席から立ち上がり、隣の車両へ移動しました。ここで不浄霊と関わっても、面倒に巻き込まれるだけで私にメリットはありません。

　人の感覚はそもそも曖昧で、時間や空間の状況次第では、大きくずれてしまいます。そんな時に人間の五感よりも、鏡や影の方が正しく実態を伝えてくれることもあるのです。ですから私は不浄霊の臭いを感じる人に遭遇したときには、その人の実像だけではなく、影や鏡（ガラス）に映る姿まで確認することがしばしばあります。

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