第１１５８回　失敗とは、（１）

　先日、私に相談した方は、アップダウンの激しい人生の流れを持っていました。ですから何度も目の前が真っ暗になるような失敗を繰り返してきました。その失敗も凶暴な借金取りに追いかけられて家に住んでいられなくなり、地方都市へ逃亡したり、生命保険に入るように命じられるなど、かなり際どいところまで何度も追い詰められています。それでもそこから立ち上がって、また豊かな生活をするのですが、いずれどこかで失敗して住む家が無くなるようなところまでまた追い詰められます。しかし若いころは、どん底に落ちてもそこから這い上がる気力も体力もありました。ただ、年齢を重ねた今は、そのエネルギーが完全に枯渇してきて、そこに落ちても「もう一度、頑張ろう」という気力が湧いてこないというのです。本人は、「ここで頑張って這い上がっても、またどこかで失敗して落ち込むのが自分の人生だから、このまま死んだ方が楽ではないか」と、そんな投げやりな気持ちになるというのです。私から見ると、この人が今、そのように考えるのは、まったくこの人らしくないことです。正常な思考が働いていません。それは“今度こそ”と思った事業がまた失敗に終わり、お金も人脈も失ったことでパワーが完全にエンプティーになっているからです。ですから私はこの人の話を聞いて、励ますとか、叱咤激励をするとか、輝くような未来の話をせずに、ただ一言、“休むように”アドバイスをしました。まずは今用意できる持ち金を集めて、人の念（思い）が飛び交っている都会を離れて、空気や景色の良い地方の温泉へでも行くことです。そこで５日でも１週間でもゆっくり湯に浸かって心身を休めるように伝えました。この人は確かに激しい人生の流れに翻弄されるように生きてきました。しかし、そこに落ちても這い上がる粘り強さと、行動力がこの人の信条です。これがあるから今まで生き残ってきたのです。その力は決して消滅してしまったのではなく、エネルギーが足りなくなって機能していないだけです。パワーが補給されれば、きっとまた立ち上がることはできるのです。

昔、１９００年代にサイレント映画界の大スターであった女優の「メアリー・ピックフォード」は、カナダのトロントで生まれ、のちにニューヨークに渡ってブロードウェイで映画デビューしました。小柄でもとてもパワフルな演技は大衆を魅了して、やがて”アメリカの恋人“と言われるほどの人気女優になったのです。その彼女が有名な言葉を残しています。

～失敗とは転ぶことではなく、そのまま起き上がらないことです～

彼女は転んでしまうことが失敗なのではなく、そのことによって次の行動を取れなくなることが、“真の失敗である”と言ったのです。つまり私に相談した人がやるべきことは、まずは枯れてしまったエネルギーを補給すること。そして元気を取り戻したら、また起き上がって次の仕事をすること。それだけなのです。

私も今までに数限りない失敗をしましたし、人生もどれだけ遠回りをしてきたのか分かりません。ですからメアリーの言ったこの一言は、ものすごく心に響いて、今でも深く突き刺さっています。

　今では世界的な自動車メーカーになった「HONDA」の創業者「本田宗一郎さん」は、「私が手掛けた仕事のうち成功したのは１％。９９％は失敗だった」と言い切っていました。本田さんは「新しいことをやれば、必ずしくじる。腹が立つ。だから寝る時間、食う時間を惜しんで何度でもやる」と話しています。失敗に落ち込んでいる暇があったら、立ち上がって次の仕事へ向かうことが大切であると言っているのです。（２）へ続く。

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