第１１２４回　光と影（３）

　「崇徳天皇（すとくてんのう）」は、１１１９年に鳥羽天皇の第１皇子として生まれました。母親は中宮「藤原璋子（しょうし）」、母の父も大納言という身分の高い家柄です。第７５代天皇として、１１２３年２月に即位した後、１１４２年１月に、満２歳５か月の異母兄弟「近衛天皇」へ譲位しました。そして「近衛天皇」の在位中は、父親の「鳥羽法皇」が院政を敷きました。このいびつな関係のため、この時代は貴族間の内部抗争がしばしば起きています。そして１１５６年、「崇徳上皇」は、「保元の乱」で後白河天皇に敗れて、讃岐へ島流しになりました。崇徳院（譲位後）は、乱が収まったあとも、罪人として扱われて讃岐で過ごしました。乱で敗れた他の貴族や武将が帰京を許されても、崇徳院は讃岐に生涯留め置かれました。そして８年後に、讃岐で４６歳の若さで亡くなりました。そして崇徳院の死後、後白河法皇に近い貴族や皇族が相次いで亡くなりました。さらに、「延暦寺の強訴」「安元の大火」「鹿ヶ谷の陰謀」と言われる事件が相次いだため、社会不安が広がり、崇徳天皇の怨霊が意識されるようになりました。そして長い間、罪人とされた「崇徳天皇」は、１８６８年になってようやく、「明治天皇」が、自らの「即位の礼」に際して、勅使を讃岐へ派遣して御霊を京都へ帰還させたのです。そして「白峰神社」を創建して、他の２人と同じように、神社の祭神になっているのです。このように祭神と怨霊とはまったく相容れない光と影のように思えますが、実は表裏一体であることは良くあります。

　私は中学生の頃に、一時“魔術”にハマって、ヨーロッパに伝わる歴史書を呼んで、実際に悪魔を呼び出そうとしてことが何度もあります。まずは自分を守るために、地面に魔法陣を描きます。その中に入って、歴史書に書かれていたルールに従って、“悪魔：メフィストフェレス”や“悪魔：ベールゼブブ”を呼び出します。そのためにヨーロッパのポピュラーな魔法書「ソロモンの鍵」を何度も読んでそこに書かれていた作法やマントラも覚えました。その中の一節で今でも覚えているのは、

「悪魔は、見返りが無ければ動きません。悪魔はどんな望みも叶えてくれますが、大きな望みであればあるほど、見返りも大きくなります。悪魔が求めてくるものは、あなたの魂です。しかし、魂を与える約束をしてしまうと、願いが叶った後にあなたは死ぬことになります。ですから金貨や好物の食べ物などを見返りにして悪魔と交渉してください。“ソロモンの鍵”に書かれた呪文には悪魔は対抗できませんから、この呪文を唱えながら、魂を与えなくても望みが叶うように交渉するのです」

　確かこのように書かれていたと思います。それだけ教えられても、中学生の私が自分に都合の良いように悪魔と交渉する力が無いことは明らかでした。しかし結果的にはそれ以前に、「ソロモンの鍵」に書かれた作法にしたがって、深夜に儀式を行いましたが悪魔は現れませんでした。それでも当時、よく読んだ中世の歴史書やキリスト教系の書物の中の挿絵には、悪魔と大司教が並んで描かれているものが数多くありました。それは子供心に聖職者と悪魔は表裏一体なのだと強く植え付けるきっかけになりました。そして魔法自体が、悪魔の力を借りて利己のために行う“黒魔術”の他に、精霊や天使の力を借りて利他のために行う“白魔術”もあることを知りました。

考えてみれば、日本で広く知られている“稲荷信仰”は、現世利益が得られる信仰として人気があります。しかし、それだけ強い力がある「お稲荷様」だけに、お礼参りを行わなかったり、裏切ったりすると、その分、大きな“しっぺ返し”が来るとも言われています。怨霊と祭神、大司教と悪魔、大きな利益と怖いしっぺ返し、ゾロアスター教ではありませんが、これらはすべての事象には光と影が伴うことを明確に表しているのです。

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