第１１１８回　生霊（２）

「この方だと思います」

「………」

私の指摘に相談者は絶句しました。それは私が指差したのが、いつも自分に攻撃的だった同年代の同僚ではなく、入社以来ずっと親切に接してくれた１回り年上の女性だったからです。この先輩社員とは普段からお昼ご飯を一緒に食べたり、湿疹のことも相談したりして、とても仲良くしていたのです。ですからまさかその人が自分に生霊を飛ばしているなどとは夢にも思わなかったのです。

　私が確信を持って答えたのには理由があります。相談者の部署には社員は１０人ぐらいしかいません。その中で女性は相談者を入れて３人だけです。そのうちの一人は、相談者が生霊を飛ばしていると思った同年代の女性です。しかし私は、生霊を飛ばしているのは、同じ職場の女性で年齢は４０代ぐらいだと感じました。それに該当するのは、この女性しかいなかったのです。私はショックを受けて押し黙っている相談者に話しました。

　「人の心は表から見るだけでは分からないものです。特に心の深層で思っていることは、言葉や態度とは裏腹なことは多くあります。特に生霊は、本人の勝手な思い込みによって出ますから、あなたがこの女性に悪意が無くても、何ら悪いことをしていなくても、本人があなたにネガティブな思いを募らせていけば飛んでくるのです」

相談者はしばらくして重たい口を開きました。

　「………シュンさん、これから私はこの人にどのように接したらよいのでしょう」

　私は相談者を正面から見てゆっくりと話しました。

「生霊は出している本人も気づかないうちに飛ばしていることがほとんどです。ですからもし、あなたがこの人を問い詰めても、逆にあなたが変に思われるだけでこの問題は解決しません。むしろ問い詰めてきたあなたに怒りを覚えて、さらに強く飛ばされる可能性もあります」

「………」

「ですから問い詰めたり、無視したりせずに、今まで通り普通に付き合ってください。その中で仕事以外のことはできるだけ話をしないようにして、少しずつこの方との距離を離してください。同じ職場で働いていますから、表面上はあくまでも普段通りに感じよく接してください。ここでこの女性と確執ができると、もう一人の女性社員は敵対しているわけですから、あなたが職場で孤立化してしまいます。この先輩社員と同僚の女性社員が結託しないように、表向きは先輩社員に付いて彼女を持ち上げてください。腹の中で違うことを考えているとしても、そうやって職場での人間関係は維持しておいた方が、これからも楽に仕事に臨めるのです」

　生霊の問題で私に相談する方は多くいます。その際に私が生霊を飛ばしている方を絞り込んで行くと、ほとんどの人は「本当にこの人ですか？」と聞き返してきます。生霊は呪詛をするように強く憎んだり恨んだりしていると却って出ません。恨み・憎しみ・嫉妬などのネガティブな思いを心に抱えていても、それが少し冷めているような状態の方が生霊は出やすいのです。それは生霊が出る時の脳波は“α波”だからです。また、それが生霊の被害を受けている人からすれば、“思いもよらない人”から生霊を受けることにつながっているのです。私は帰宅してからすぐに人の念（＝生霊）に強く対抗できる「神符」を作って、相談者へ郵送しました。

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