第１１１６回　貧しさ（２）

私が子供の頃に「魔法使いサリー」という人気のアニメがテレビで放送されていました。話は毎回変わるのですが、その中にも胸に刺さったシーンがあります。サリーちゃんと弟のカブが、サリーちゃんのクラスメイトの誕生会に呼ばれました。ところがクラスメイトの中に同じ誕生日の女の子が２人いたのです。一人はお金持ちの娘さんです。もう一人は貧しい家の娘さんです。クラスメイトは、

「ご馳走がたくさん食べれるぞ！ケーキがたくさん食べれるぞ！」

そう言ってお金持ちの娘さんの誕生会へ全員行ってしまいました。サリーちゃんは一人残された女の子をかわいそうに思い、「お金持ちの誕生会へ行きたい」というカブを叱りつけて無理矢理、貧しい家のお誕生会へ連れて行ったのです。お金持ちの娘さんの誕生会は、予定通りご馳走やお菓子にあふれて盛大に行われました。一方、貧しい家の誕生会は、本物の料理を出すお金が無かったので、お母さんは折り紙でケーキやステーキなどのご馳走を作ってそれをテーブルに並べたのです。それでもお母さんの気持ちを察して、娘さんもサリーちゃんも、おいしく料理を食べたふりをしていました。しかしカブは、

「お姉ちゃん、これ料理じゃないじゃん、こんなもの食べられないよ！」

そう吐き捨ててしまったのです。それを聞いたお母さんも娘さんは惨めに思って泣き出してしまったのです。この切ないシーンも胸に焼き付いています。

前回の「貧しさから同級生と一緒に振り袖を着て成人式に出られなかった女性の話」も、「病気の子どもを病院へ連れていけなかった母親の話」も、今回の「サリーちゃんの話」も根底は同じです。貧しさゆえに周りの人が当たり前にできていることを実行することが出来ず、我慢を強いられたり、惨めな思いをしたり、ひどくすれば命まで無くしてしまう可能性があることを知らしめています。

　私自身はどちらかと言うと裕福な家に生まれ、私立高校から私立大学へ２つも通いました。私が子供のころから不思議な能力を持っていたおかげで、親兄弟との確執は小さいころからたくさんあって、それは生涯消えません。しかし、生活費や教育費や医療費に困ったことはありませんし、むしろ好きな勉強や趣味に没頭する時間もありましたから、その意味では親に感謝しています。それなのにどうして私は貧しさを背景にした、悲しみや切なさが胸に突き刺さるのか。自分ではその理由は分かっています。それは“私の前世の記憶が今の私に色濃く刷り込まれているから”です。

　以前、群馬県の山間部を車で走っていた時、刈り取られた畑の向こうに沈んでいく真っ赤な夕日を見ていて、ハッと我に返ったことがあります。

～私はこの景色を前世でも見ていた～

何の根拠もなくそのことを確信したのです。そして雪の降りしきる中、ボロボロの蓑（みの）をまとい、ボロボロの草鞋（わらじ）を履いて日本中を歩き回っている僧侶の自分が頭に浮かんだのです。そして僧侶だった私は、たくさんの人の死に立ち会ってきました。僧侶が亡くなった人の供養のためにお経を上げるのは当たり前です。ただ、それ以外にも病に倒れ、空腹に耐えきれずにお寺にやって来た人々を救うことができずに、私は多くの人をあの世へ送り出してきたのです。そのときの悲しみや切なさ、そして無力な自分に対する悔しさは、生まれ変わった今も意識の底に沁み込んでいます。だから貧しさによって悲しみや苦しみに耐えて生きている人を見ると、心が大きく揺れてしまうのです。今はまだ自分やスタッフの生活もありますから、できる範囲の手助けしかできていません。しかし、いつかこのサイトもすべて無料で運営できるように人の輪を広げていけたらよいと思っています。

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