第１０８６回　不浄霊の妨害（２）

　「浄霊」は「除霊」と違って、もし本人が拒絶していたとしても、作業は面倒になりますが、それを実行することはできます。ただし、浄霊では上げていく不浄霊の子孫であったり、その家族の協力が必要になります。多くの場合、浄霊を依頼する方は、元凶となる不浄霊や恨みの相手方の子孫に当たる人が多いのです。依頼人には、浄霊を実行している私どもと同じ気持ちで、不浄霊の成仏を祈ってもらいたいのです。

　そしてこの際にも不浄霊の妨害はさまざまな形で入ります。具体的には霊はしばしばその人のタイミングを狂わせます。ですからタイミングが悪くて事故に遭うとか、道でつまずいて転倒すとか、仕事にトラブルが発生するなど、スムーズに浄霊に入れない状況を作り出します。また、元凶となる霊の妨害は浄霊が始まってからも続きます。

　以前は、私たちがお堂にこもってマントラを唱えている時間に、依頼者の方も「一緒に手を合わせたい」と言って参加していたことが度々ありました。そのときは埼玉県内の知り合いのお寺のお堂を借りていました。あるとき浄霊が進んで不浄霊の抵抗も激しくなっていた時に、依頼者の方が来られたのです。私はその方に強く注意しました。

「このお堂の周囲には結界を張っていますので、元凶となる不浄霊やその取りまきの不浄霊が襲ってきても中に入ることはできません。しかし、結界の外に出れば、その瞬間に攻撃してきます。何が起こるか分かりませんから、絶対にお堂の外には出ないでください。もしトイレへ行きたいときには、このお堂の隣に庫裏があります。そこへ行く時は、私かサポートメンバーに声をかけて、必ず一緒に行ってください。不浄霊は非常に狡猾です。何とかしてあなたを結界の外へ出そうとしてきます。とても危険ですから何があっても、お堂の外へ出てはいけません」

そのように話しました。浄霊では１回に２時間弱のマントラを１日に４回から６回唱えます。終日では気力も体力も持ちませんから、私も含めて４人でシフトを組んで休憩を入れながら続けていきます。マントラを唱えている最中にもトラブルが起きることがありますので、基本的にはマントラは２人で唱えます。そして１人は何かあったときに備えて待機しています。そしてもう一人は睡眠をとったり、完全休息に入ります。そして私が休息の時間になって外に出た時にトラブルが発生しました。私はお堂の近くに止めた結界を何重にも張っている私の車の中で睡眠をとろうと思っていました。そのときに車の外から突然、女性の悲鳴が聞こえたのです。その声はまるで“断末魔の叫び声”のように静かなお寺の中に響きました。私は車の中にあるパワーストーンや神符、そして経本をポケットに入れて外へ飛び出しました。するとお堂の外に依頼者が倒れていて、「痛い！痛い！」とうなり声を上げていたのです。

お堂の入り口のドアは、お寺の敷地内から石でできた階段を５段ぐらい上ったところにあります。その下に倒れていましたから、お堂の入り口から石に当たって転落したことはすぐに分かりました。依頼者は、右手の手首を押さえていました。そこは見る見る紫色に腫れあがっていきました。

「今、すぐに救急車を呼びますからね」

私の声に依頼者は黙ってうなずきました。

「でも、どうして外に出たのですか。あれほど外は危険だと言ったのに…」

私の言葉に依頼者は驚いて答えました。

「えっ、だってシュンさんが入り口のドアの外から、“ここにいますから出てきてください”って言ったじゃないですか。だから私は、シュンさんに呼ばれたと思ってドアを開けたんです。そうしたら急に何かに背中を押されて、一瞬、身体が浮き上がったのです。そして気が付いたらここに倒れていたんです」

依頼者は恨めしそうにそう言って私を睨みました。もちろん私は車の中にいましたから一言も声をかけていません。狡猾な不浄霊は、脅しの言葉を依頼者へぶつける代わりに、私の声色を使って依頼者を結界の外へおびき出したのです。そして依頼者は手首を複雑骨折して、金属のプレートをボルトで固定する手術を行う重傷を負ったのです。それから浄霊のマントラは私やサポートメンバーだけで唱えることにして、依頼者や関係者の協力は、それぞれの家の中からお願いする形にしたのです。

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