彼女によると、この夢を見るときは、夢の中に見える世界は、独特のトーンでその世界が広がっています。他の夢にも人が出てくるときはありますが、この時の映像は妙にクリアで鮮やかなのです。でもこの映像はきれいなカラー映像ではなくて、カラーですが少し、さび付いたような“セピア色”をしているのです。この独特のトーンの夢を見た時、この夢に出てくる知り合いが、その後で亡くなっているのです。そして最近になって、再びこの夢を見ました。夢の中でも今度は誰が出てくるのか、ドキドキしながら待ち構えている自分がいました。しかし、このトーンの世界の中で、ドキドキしながら待ち構えている自分以外に出てくる人は誰もいません。目が覚めるまで、誰が出てくるのか、それを待ち構えている自分しかいないのです。そして目が覚めた時、自分でもこのことを認めたくなくて、すぐに目を開けて起床することができませんでした。しばらくは目を閉じてベッドに横になったまま、夢の続きが始まるのを待ち構えました。しかし、どれだけ待っても夢の続きは始まりません。そしてとうとう目ははっきりと開いてしまい、そのまま目覚めたのでした。つまり、このトーンの不思議な夢の中で、とうとう自分の姿だけを目撃してしまったのです。

 

今までこのトーンで夢を見た時には、必ず誰かが出てきました。そしてしばらくして夢に出てきた人は亡くなっていました。自分しか出てこない夢は今までに一度もありません。ですから、このことが自分の死を予見したものなのかどうかは分かりません。しかし、時間が経つにしたがって、心の中に不安と恐怖が広がっていきました。今は特に体調の悪いところはありません。しかし、会社の同僚のように、人は突然、原因も分からずに命を落としてしまうこともあります。そこで私に未来を確認してもらうために連絡してきたのです。

 私は開口一番、彼女に伝えました。

「大丈夫です。あなたは死にません」

私は強くそう断言しました。きっとよくよく恐怖に震えていたのでしょう。

「ありがとうございます…」

そういう彼女の瞳は潤んでいました。そしてしばらくして重たい口を開きました。

「シュンさん、この夢は何だったのでしょうか?霊的な現象なのでしょうか?そしてどうして今回、こんな夢を見てしまったのでしょうか?」

私はうつむいた彼女に優しく話しました。

「今まで見た夢は、“予知夢”と言われるものです。霊の世界は時間が時系列に進んでいません。ですから未来と過去が逆転して現実化されることもよくあります。その場合、遠い未来ではなくて近い未来ですと、現実より先にその未来を感じ取ることはあります。それがあなたには、夢と言う形で現れたのでしょう」

「はい」

彼女は納得したようにうなずきました。

「それでは今回の夢についてですが、これはあなたの心の中の不安感がもたらしたものです。あなたの意識の深いところには、この現象が続く中で、“もし、自分が夢に出てきたらどうしよう”と言う不安が、次第に広がっていたと思います。その不安な思いが、そのまま夢に投影されたのです。ですからこれは予知夢ではありません。ですからあなたが亡くなることもありません」

彼女は私の言葉を聞いて、ホッとしたように大きく息を吐きました。不安な思いが不安な未来を呼び込んでしまうように、彼女が自分の夢を“見たくない”と強く思えば思うほど、意識の深いところでは、その夢を形作ってしまうことがあるのです。

 


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