最近、何件か離婚についての相談が続きました。私が離婚について相談を受ける際に、離婚を勧めるのか、思いとどまるように話すのか、その基準は明確です。一言で言えば、離婚したことによって今よりも幸せになるのか、不幸になるのか、その先の未来を霊視して感じたことを率直にお答えしています。ですから現状のお話をうかがってどれだけひどい状況であっても離婚をしないようにお話しすることもあります。逆に今は問題が表面化せずに一見上手く暮らしている夫婦でも、将来の離婚へ向けて着々と準備を進めていくように背中を押すこともあります。

 たとえば今、夫から暴力を受けている奥さんがいます。夫は酒乱でお酒を飲むと自制心が効かなくなります。暴力を振るった後は、深く反省して謝罪をするのですが、それはお酒が抜けてきたからできていることです。夫婦で何度も話し合って、そのたびに夫は「もう二度と暴力は振るわない」と約束しています。しかし、お酒が抜けているときの約束は、お酒が入れば何の意味もなくなります。近所から通報されて、警察沙汰になったことも何度もあります。それよりも何よりも、ひどい暴力を振るわれれば、奥さんが後遺症が残るような大怪我を負わされる可能性もありますし、打ち所が悪ければ命に関わる可能性だってあるのです。ですから奥さんが今まで相談した人は、全員が「取り返しのつかないことになる前に、離婚した方が良い」と伝えてきました。今は離婚した母子の世帯に対して、役所のサポートもさまざまな形でされるようになりました。ですからそういったものを活用していけば、「離婚後に生活することはできる」と、励まされてきたのです。この夫婦には高校生の男の子が一人いますから、思春期の子供に、母親が父親から暴力を振るわれる様子を見せることは子供の心にも大きな傷を残してしまいます。そしてすでに息子は父親を憎むようになっていて、父子の会話はほとんどありません。家の中で顔を合わせても挨拶一つしません。一緒に食事をしても、無言のまま食べ物を口に運んでいます。ただ、ときどき父親が家の中で暴れて、母親の悲鳴が聞こえれば、身を挺して止めに入り、今度は父子のケンカが始まります。ですからこの奥さんが相談した人たちすべてが離婚を勧めるのは当然かもしれません。この家でこの3人が一緒に暮らすことは、誰にとっても良いことは何一つないからです。それは明確です。

 

 それでも私は、奥さんに

「今、離婚しない方が良いです」

とお答えしました。その理由も明確です。まず1番の理由は、夫の暴力はこれからその頻度が減っていきます。多くの場合、一度DV始まると、それは簡単に収まらないばかりか、だんだんひどくなることがほとんどです。しかし、この家では高校生の息子さんが、父親のDVに対して母親を守れるようになってきました。高校生になって体力が付いてきた息子さんは、父子喧嘩が始まると、父親を投げ飛ばすようなことも増えてきました。父親は今までは息子さんも小さかったので、体力的に自分の方が有利だと思って家の中でやりたい放題してきたのです。しかし、息子さんに体力でかなわなくなってきたことで、息子の前では母親に暴力を振るわなくなってきたのです。つまり、息子さんが父親の暴力の一定の抑止力になり、母親の身に及ぶ危険が軽減されてきたことが第1の理由です。

 そして第2の理由は、離婚した後の母子の生活が、今よりももっと悲惨なものになるからです。まず、この奥さんは手に職はありませんし、学生時代に妊娠して結婚していますから働いたことがありません。ですからアルバイトにしろ、パートにしろ、離婚後に働き始めたとしても、それは長続きせずにすぐに辞めてしまうことになります。その結果、いくら役所から母子家庭に対する支援があったとしても、生活が成り立ちません。家は母子家庭の支援の一環として住める公営住宅はあります。しかし、世帯収入がゼロでは、暮らしは成り立たず、息子さんも高校へ通うこともできなくなります。夫は離婚後の財産分与にも慰謝料にも養育費にも素直に応じることはありません。もし、裁判で争って、いずれそれらを勝ち取ったとしても、今手持ちのわずかな貯蓄だけでは、それまでの訴訟費用や生活費が足りなくなるのです。息子さんは、あともう1年半頑張れば、高卒として会社に勤めることはできます。そうなれば真面目に働いていけば、一定の生活は生涯保障されていきます。そのレールに乗せてから離婚した方が、お母さんにとっても息子さんにとっても、その後の人生ははるかに安定します。もし、今すぐに離婚した場合、母子の生活は破綻して、息子さんは高校を中退して、人生の道を踏み外すことになります。そしてあと1年半の間に、夫の暴力で、奥さんが致命的な傷を負うことも感じません。今の状況がひどいことはもちろん分かりますが、離婚してそのひどい生活から逃れた後に、今よりもっとひどい生活に追い込まれることもあるのです。ですからどちらの道を選択するか迷ったときは、現状の良し悪しだけで単純に判断するのではなく、その先の未来を見据えた上で決めていかないと、離婚した後から強く後悔することになるのです。

 


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