お店のオーナーは、この居酒屋を駅前にオープンするために、如何にお金を費やして、素晴らしいお店を出店したのか私に説明しました。私はオーナーの話に返事をしながらも、土地に問題のないこのお店が、どうしてここまで霊的に悪い状態なのかを探りました。その中でオーナーが気になる一言を口にしました。

「シュンさん、内装・外装にこれだけの木材を使うとその代金だけでも高額になります。そこで大工の棟梁が私に良いことを教えてくれたのです。“近くに今は誰も住んでいない古民家があります。その家をそのまま買い取って、その木材を使いましょう。その方が安くできます”と、そのように提案してきたのです」

 確かに築年数が100年近くも経過して、人の住んでいない「古民家」なら、持ち主にしてもむしろ「撤去してもらいたい」と考えていることもあります。そんな木造建築の家なら、タダで撤去ができて手元に少しでもお金が残るなら、喜んで売ってくれる人もいるのでしょう。しかし、私は、お店の内外装の木材として使った、この木造の「古民家」が非常に気になりました。そしてオーナーに率直に尋ねました。

「オーナーはその古民家がどのようないきさつで、人が住まなくなったのかご存じですか?また、どのような人がこの家の持ち主なのか知っていますか?」

 オーナーは私の質問が思いもよらなかったようで一瞬言葉に詰まりました。

「持ち主は契約の時にお会いしましたが、都内に住んでいる“普通のサラリーマン”とうかがっています。元々の持ち主の子どもたちは全員が亡くなったため、縁戚に当たるこの方が相続したようです。この古民家は、とても広い敷地に昔から古屋が一軒建てられていましたが、以前から空き家のようでした」

 私は胸のつかえが一気に取れた気がしました。築100年近い古屋で、しかもかなり大きな地主と思われるこの家の子孫は以前から絶えているのです。私の経験からしても、居酒屋の現状からしても、この古民家に因縁の元があると確信したのです。そしてオーナーにお願いしました。

「オーナーに調べてもらいたいことがあります。オーナーが買い取った古民家の持ち主が、どうして家が絶えてしまったのか。また、どういう家系の家なのか。地元の不動産屋さんやお寺などで調べてもらえないでしょうか。きっとこの問題の根源はそこにあると思います。原因が明確にならなければ、有効な対処の方法は決められません。よろしくお願いします」

 私の依頼に経営者は大きくうなずきました。そして10日ぐらいして経営者から私に連絡が入りました。

「シュンさん、古民家の件ですが、あのあと地元にあるお寺と昔からあの地域に住んでる地主に訊いてきました。その結果、あの古民家に住んでいた地主さん一族も、あの古民家自体も過去に相当根深い因縁を抱えていました。私が聞いた話では、古民家に住んでいた一族は、大昔からこの地域で大きな土地を持っていた“名主さん”のような存在でした。しかし、本家も分家も一族みんなが強欲で、いさかいが絶えないような家だったそうです。親兄弟が集まれば、いつもお金のことで揉めて、喧嘩が始まれば、大理石の灰皿で殴り合うなど重傷を負わされて警察沙汰になるようなこともしばしばあったと言います。そして戦前の話ですが、ついにはあの古民家に住んでいた家族の中でナタやスコップ、包丁を振り回した喧嘩が始まり、死人が何人か出たそうです。犯人は刑務所に収監されました。生き残った家人もいましたが、死人が出た家ですから近所の人も寄り付かなくなったそうです。そして最後の住人となった子孫は、家の中で死んだ後、誰にも気づかれずに何か月か経って遺体が発見されたそうです。私は地元の人間ではないので、まさかそのような惨劇のあった家だとは全く思いませんでした」

 私は、経営者の話に納得しました。居酒屋の中に入ったとたんに、私が上下・前後・左右から攻撃を受けたように感じたのは、お店の内装・外装に惨劇のあった古民家の木材が使われていたからです。この木材は金銭欲に巻かれて、家族・親族同士で憎み合い、体を切られ全身を刺されて飛び散った血液が十分に沁み込んだものだったのです。ナタや包丁で切り刻まれた体からは大量の血液が流れ出して現場が血の海になっていたことは容易に想像できます。その血を大量に吸い込んだ木材で天井も壁も床も作られていたのですから、その中の空間は、多くの人にかなり強い不快感を与えていたのです。

 


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