病院に運ばれた相談者はしばらく横になって点滴を打たれたことで、その日のうちに回復して帰宅しました。付き添ってくれた同僚が家まで送り届けてくれると言ってくれましたが、丁重に断りました。それはこの同僚を含めて、自分は会社の社員に避けられていることをよく分かっていたからです。それと同時に、自分の家に入られることが嫌だったのです。それは単に「プライバシーを覗かれたくない」という思いよりも、別の理由がありました。それは人形を収めている手作りの“社”が今ではかなり大きくなって、豪華な祭壇のように変わっていました。そして新しい社の前には、「お水」「お酒」「お米」「お塩」「果物」「榊」に加えて、自分が大切にしていたものが並べてありました。それは「腕時計」「カメラ」大好きなタレントの「写真集」もありました。これは相談者が人形と語る中で、自ら言い出したものです。自分が嫌う人間たちに、この人形が罰を与えてくれたことに、最大限の感謝を示したかったのです。

 しかし、憎むべき相手に不幸が訪れて平穏な日々が続くと、相談者は何か物足りなくなってきました。相談者は長い間、いつも誰かを羨んだり憎んだりすることで、その思いをパワーに替えて生きてきたのです。その対象がいなくなると、心の中にぽっかりと穴が開いたようで居心地が悪くなったのです。それとともに、人形がしばしば夢の中に出てきて、相談者に話しかけてきました。

「次のターゲットは誰だ?お前が憎いヤツの名前は何だ?早く言え!早く言ってみろ!」

それはまるでお腹を空かせた子供が食べ物を要求するように、毎晩のように執拗に彼に迫ってきたのです。そしてすぐに“生贄”を提供できない彼は、人形に詫びてその気持ちを示すためにまた大切なものを捧げたのです。

 こんなことを繰り返している中で、相談者の心はどんどん病んで行きました。人形に対する依存は、強い執着となって彼自身を縛り付けました。

“祈りをささげる時間、貢物を見つけてそれを捧げる時間、次のターゲットを探す時間”

自分でもおかしいと思いましたが、もしこの儀式をやめてしまったら、人形の怒りは自分に向けられてしまうだろう。そうなれば人形を裏切った自分は、きっと

“抹殺されるに違いない”

その思いが強い強迫観念となって彼を襲っていたのです。そしてとうとう彼は会社にも出勤できなくなりました。

 

 彼は上司の命令で、心療内科と精神科を受診しました。そして病名が付けられて薬が処方されました。しかし、薬を飲んでも気持ちが悪くなるだけで、一向に精神は安定しません。そして医師からも上司からも撤去するように言われた手作りの祭壇は、まだ室内に置かれたままでした。彼を心配した上司はこれを何度か取り壊そうとしました。しかしそのたびに彼は気が狂ったように暴れてそれを阻止していたのです。

~この人形は、人の命を奪うことなどたやすくできる力を持っている~

そう考えている彼からすれば、この祭壇を撤去することなど、恐ろしくてとてもできることではなかったのです。自分でも今の状態が良くないことは十分に分かっていました。しかし、がんじがらめに縛り付いた人形依存は、どうやっても振り払うことが出来なかったのです。そして私に相談してきたのです。(4)へ続く。

 


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