相談者は、家に来た日本人形を“呪いの人形”ではないかと思いました。自分に恥をかかせたり、バカにした人間に対する強い憎しみの思いが、きっとこの人形を呼び寄せたんだと思いました。ですから自分を1時間以上もネチネチと説教し続けたこの上司も、近いうちに“きっと不幸に襲われる”と、そう信じていたのです。しかし、相談者の期待に反して、上司に不幸な出来事は何も起こりませんでした。むしろ上司は今までよりも元気に仕事を続け、部下を怒鳴り続けていたのです。そしてついに、部下の一人がこの上司を“パワハラ”で会社のコンプライアンスに訴えました。しかし、期待に反して上司は重い処分を受けませんでした。それは今まで仕事の実績を残し、会社に貢献してきた人物だったからです。担当役員から注意を受けただけで終わりました。左遷も異動もありません。むしろ訴えた社員が、別の営業所へ飛ばされて結局退社したのでした。

~こんなことっておかしいじゃないか、被害者が退職して加害者が処分なしなんて。それに人形の呪いはどうなっているんだ、毎日こんなに念を送っているのに~

 

相談者は今の状況を打開するために、人形を収める社のような物を手作業で作りました。そしてその中に人形を置いて、その前に供物として、「お米・お水・お塩・お酒」を見よう見まねで設置して、上司の不幸を毎日祈ったのです。

 ただ、そのころから相談者は、周囲の知り合いからしばしば声をかけられるようになりました。

「どうしたの?最近、痩せたんじゃない?顔色悪いし、どこか具合でも悪いの?」

自分では体に異変は何も感じません。しいて挙げればズボンのウエストが、少し緩くなった気はします。それも“ダイエットにはちょうど良い”と思い、気にも留めていませんでした。それからしばらくして、ついに相談者の願いが叶いました。会社の前の歩道に高齢者が運転操作を誤った車が突っ込んで、複数のけが人が出ました。その中に上司も含まれていたのです。しかも上司は運悪く、車に跳ねられた後、歩道のコンクリートに頭を強打しました。そして意識不明の状態が続いてしまったのです。

 

~やったあぁ!さすがオレの“呪いの人形”だ!同僚の仇も取ってやった、これからもオレをバカにしたり、オレを“ないがしろ”にするヤツは許さない、倍返しで仕返ししてやる~

相談者は事故の連絡を聞いて大いに喜びました。そして帰宅途中には、果物屋さんに並んでいた高価なメロンや果物を買って帰りました。そして家に着くとすぐに手作りの社の前に座り、供えていた「お米・お水・お塩・お酒」を新しいものに交換しました。そして買ってきた果物を人形の前に供えて手を合わせたのです。

~今日、アイツが事故に遭って病院へ運ばれました。今も意識不明でICUに入っているようです。私の願いを叶えていただきまして本当にありがとうございました。会社の帰りにおいしそうな果物がありましたので買ってきました。どうぞ召し上がってください~

相談者はまるで“お礼参り”をするように、笑顔で報告して感謝をしたのです。

 

そのころから会社では変な噂が広がりました。最近になって、上司の一人が急性心不全で亡くなりました。そして他の社員は交通事故に遭いました。さらに今回の事故で1人が意識不明になっています。会社の中で、同じオフィスで働く3人の社員が同時期に不幸な目に遭っているのです。

~これは何かの祟りか、或いは誰かが祟っているのか~

そんな噂が広がることも致し方ありません。一部の社員からは「神社に頼んでお祓いをしてもらった方がよい」という意見も出されました。しかし、会社の経営者も幹部もそんな“非科学的なこと”はむしろ嫌っていました。そのため“お祓い”が実行されることはありませんでした。それからしばらくは平穏な時間が過ぎました。“祟り”の話もいつの間にか消えていきました。しかし、相談者の様子の変化は、しばしば社員の話題に上がりました。

~両目は落ちくぼんで、クマができています。頬はこけて体重もかなり減りました。そして時々、ぶつぶつと独り言を言いながら歩いています~

これでは変な噂が立つのも仕方ありません。そしてある日、相談者は社内で貧血で倒れて、救急車で病院へ運ばれたのです。(3)へ続く

 


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