皆さんは、自分の部屋やバッグの中などに、あるはずのないものを見つけてビックリしたことはないでしょうか。先日、私に連絡してきた方は、朝起きると、室内のテーブルの上に、20センチぐらいの背丈の日本人形が置いてあったというのです。前夜、会社の帰りに同僚と一緒に何軒か“はしご酒”をして家に帰ってきました。しかし、泥酔していたわけではなく、持ち歩いている“ブリーフケース”もちゃんと部屋の中に置いてあります。何度思いだしても、この人形を持ち帰ってきた記憶はないのです。この人は気になって昨夜、一緒にお酒を飲んでいた同僚に人形の画像を撮って確認しました。しかし、この人形に何かの記憶のある人は一人もいませんでした。この人はこの人形に何か不気味なものを感じて、できるだけ目を合わせないようにしました。できればこのままゴミとして捨てたいのですが、それも何か後で悪いことが起こるような気がして捨てられません。とりあえず、自分の視界に入らないように、クローゼットの奥にしまい込んで、しばらく様子を見ることにしました。

 しかし、それからこの人の周りでは不幸が相次ぎました。同じ会社の上司が“急性心不全”で突然亡くなりました。会社の同期の人間が交通事故に遭いました。そして自分の叔父さんがガンで入院しました。これらのことが立て続けに起こりましたら、家の中にある人形と関係があるような気がして、ときどきクローゼットから人形を出して顔を覗き込みました。

 それは亡くなった上司も交通事故に遭った同期もガンになった叔父も、みんなこの人は嫌っていた人間だったからです。亡くなった上司には、他の社員の前で何度も“無能”呼ばわりされて、針の筵のような日々が続いたことがありました。最近まで上司はこの人を馬鹿にしていて、パワハラは収まってはいませんでした。交通事故に遭った同期は、以前この人が交際していた同じ会社に勤める女性にフラれていました。この人はその女性と交際しましたが、彼女は他に好きな男性が出来て、1年ぐらいでお付き合いは終わりました。それでも同期の男性は、自分がフラれた女性と相談者が付き合っていたことで、プライドが傷つけられ、さらにこの人が彼女を振ったと思い込んでいて、何かにつけて陰湿に絡んできたのです。いつも“面倒なヤツ”と思い、避けていた相手でした。親戚の叔父は、父親の兄と言うこともあって、いつも上から目線で威張っていました。自分の息子が国立大学から上場会社へ入社したことを鼻にかけて、地方の私立大学出身のこの人を良くバカにしていました。親戚が集まる法事の席などでは、本家の長男であることで、いつも殿様のように振る舞っていました。そのたびに家来のように扱われる父親がかわいそうにならなかったのです。ですからこの3人が不幸な目に遭ったことで、正直に言えば、溜飲が下がる思いがしたのです。亡くなった上司はともかく、まだ生きている二人に対しては、口には出さなくても、お腹の中で“もっと不幸になれ”と念じてしまうほど、憎んでいました。

 そしてあるとき、会社で今の上司から些細なミスをいつまでもしつこく責められて、はらわたが煮えくり返る思いで家に帰ってきました。言い訳をすれば、さらに上司の怒りに火が付くことはわかっています。ですから1時間以上もじっと謝罪だけを繰り返して、悔しさを押し殺して帰宅したのです。家に帰ると相談者は、クローゼットを開けて日本人形を取り出しました。そしてテーブルの上に置くと、じっと目を見つめて念を送ったのです。

~あの上司も不幸な目に遭えばいいんだよ、事故!左遷!退職!死!そしてオレの前から今すぐに消えろ!~

この言葉を心の中で何十回も唱えながら、人形へ向けて憎しみの念を送ったのです。それはこの人形が家に来た後で、大嫌いだった3人が続けて不幸になったこと。そのことが何かこの人形に関連しているように思えてならなかったからです。自分でもおかしなことをしている自覚はありました。それでもこうでもしなければ、心に燃え上がった怒りの炎は消せなかったのです。そしてこの瞬間、あり得ないことが起こりました。見つめ合っていた日本人形の目が一瞬、“キラリ”と光ったのです。そして口角が上がり。明らかに口元で笑ったのです。(2)へ続く。

 


シュンさんのホームページ ここをクリック