先日、交際している彼女のことで悩んでいる男性から相談を受けました。二人は3年前に彼がたまたま入った「スナック」で知り合いました。彼は兵庫県の出身で、関西の大学を卒業して、東京に本社のある会社の大阪の支店に勤めていました。彼は明るくて友人たちとワイワイお酒を飲むのが大好きです。仕事にも積極的に取り組むタイプで、営業マンとして結果を残してきました。そして、その仕事ぶりを評価されて東京の「本社営業部」に栄転となったのです。彼は都内に引っ越すと、すぐに家の近くの酒場を開拓して回りました。仕事が終われば、たいていは会社帰りに「スナック」に立ち寄ります。休日にパチンコと競馬をやるぐらいしか趣味のない彼にとって、引っ越し先で“居心地の良いスナック”を見つけることは重要な問題でした。そして何軒かお店を回る中で、小さなスナックを見つけました。初めてその店に入るとお客さんは誰もいませんでした。ママはカウンターに座って、従業員の女性と二人でスマホで競艇の舟券を買っていました。今は競馬も競艇も競輪もギャンブルは会場まで行かなくても、登録すればスマホで決済ができます。しかも時間は夜8時半を回っているのに、“ナイター競艇”が開催されているのです。相談者は、競艇をやったことはありませんでしたが、休日はパチンコや競馬をしていましたから、ギャンブルは好きでした。さらにしばしば“大勝”をしていて、トータルで利益が出る月もありました。ですから自分では“ギャンブル運”を持っていると思っていました。そんな彼はママから競艇のノウハウを教わって、一緒にスマホで舟券を買いました。そんな彼とママが仲良くなるのに時間はかかりませんでした。彼はこの日から毎日のように仕事帰りにはこの「スナック」にやってきました。そして休日にはママと二人で、競馬場や競艇場、競輪場やオートレース場を回ってデートを重ねました。ギャンブルの成績はお互いに勝ったり負けたりでした。それでもギャンブル好きの二人にとって、休日のデートは心から楽しめて二人の関係をどんどん接近させていきました。そして二人はやがて一緒に暮らすようになりました。
しかし、その頃から少しずつ、彼の生活に変化が訪れてきました。まず、大好きなギャンブルですが、あまり勝てなくなっていったのです。今までは10回ギャンブルをすれば、7回ぐらいは勝っていた時期もありました。それが最近では10回のうちに、2~3回しか勝てなくなっていました。さらに仕事でもお得意様と上手く意思疎通が取れなくて、大きな契約を逃すような出来事が何度かありました。人当たりが良くてコミュニケーションに自信があった彼からすれば、これはとてもショックなことでした。さらに“コロナウイルス”にも感染して、周囲から警戒されるようにもなりました。自分でも何か流れが悪くなったことは感じていました。
彼はギャンブルの勝ち負けで、自分の“運気”を図っていました。勝ち続けていれば、“今の自分の運気”は良いと考えて、自分にゴーサインを出します。それは仕事でもプライベートでもです。逆に負けているときは、“今は運気が悪い”と考えて、慎重に進むように自分に言い聞かせていました。大人になってから、ずっとそうやって生きてきたのです。そしてママと交際して3年が経った最近では、もうギャンブルでは10回に1回勝てるのかどうか。下手をすれば、10回やって10回とも負けることが続いていたのです。それはギャンブルの成績で自分の“運気”を推し量っていた彼からすると、“目の前が真っ暗になる思い”でした。
また、この状況に伴って彼の“懐具合”は急速に悪化していきました。トップクラスの営業マンとして、高給をもらっていた彼が、営業成績が伸びずに歩合給はほとんど入らなくなりました。そしてギャンブルで負ければ当然、お金も減っていきます。負ければ次は勝って取り返そうとします。そしてお金が無ければ、カードローンでお金を借りて、それを軍資金にまた勝負します。そして負ければ、それも取り返したくなりますから、また借金をして軍資金を作ります。よく言う“自転車操業”とは、お金を借りて、そのお金で借金の返済を繰り返すことです。彼の場合は、お金を借りても、そのお金は借金の返済にもならず、ギャンブルでどんどん溶かしていました。博打好きで、しかも勝負運の無くなった彼が、こんなことをしていては、生活が行き詰まることは見えています。
やがて会社での評価は下がり、ギャンブルが元で借金を抱えて彼は、先がまったく見えなくなりました。しかし、不思議なことに、彼が負ければ負けるほど、ママはギャンブルで勝ち続けました。ギャンブルは、パチンコなら「パチンコ屋」が。競馬なら「JRA」がお金を賭けるたびに“寺銭”といって、利益を天引きします。ですから理屈で考えれば、客が勝ち続けることはできません。分数の掛け算を何回も繰り返していけば、分子がどんどん小さくなるのと同じように、ベッティング(賭け)の回数が増えれば増えるほど、資金はマイナスになります。それが当たり前なのです。しかし、ママはギャンブルでどんどんお金を稼ぎ続けました。そしてお店も繁盛していきました。彼はこの3年間でいったい何がどうなってしまったのか。お互いに30歳を過ぎて、結婚の話が出るようになり、彼はさらに将来が不安になりました。そして私に相談してきたのです。
「シュンさん、私の人生、東京に出てきてからボロボロなんですが、私には東京は合っていないのでしょうか?」(2)へ続く。