私は相談者に話しました。
「同じようなケースは以前にもありました。その人の家は木造の古い家で、建付けが悪くなっていたため、寝室のドアが元々、ピタリと閉まりませんでした。寝室では深夜に突然、部屋の明かりが付いたり、地震のように家具が揺れたり、異臭がしてくることもありました。そんな霊現象が起った後、寝室の入り口を見ると、いつもドアが大きく開いているのです。ドアが開けっ放しのままでは落ち着いて眠りにつくことができません。ですからこの人は、寝室で霊現象が起きるたびに、ベッドを出て、部屋の入口まで歩いてドアを閉めに行かなければなりませんでした。そしてあなたと同じように、恐怖に慣れてくると、次第にこの不浄霊に“苛立ち”を覚えるようになっていったのです」
この相談者は一言も発することなく静かに私の話を聞いていました。
「そしてあなたと同じように、ついにはキレて、大声で霊へ向かって怒鳴りつけたのです。
『勝手に人の部屋に入って来やがって!部屋を出るときには、ドアぐらいちゃんと閉めていけ!バカ!』
そしてこの直後に、室内にはドアを思いっきり閉めた“バチン”という爆音が響き、いつもなら開いているドアがピタリと閉じられたのです」
相談者は自分と同じような状況を聞いて言葉を失っていました。
「そしてこのことに味を占めたこの方は、霊障が起きた後に不浄霊を怒鳴り付ければ、わざわざベッドから出て、部屋のドアを閉める必要が無くなります。そのため霊現象が起きるたびに、不浄霊に悪口雑言を吐き続けていったのです。あなたと同じことをしたわけです」
ここまで話をして相談者は沈黙して押し黙りました。私がその先を話すことを恐れていたのです。
「この男性の家にはこの時点で結界は張っていません。ですから不浄霊の影響は、あなたよりもはるかに強く出ます。この人はその後、勤め先の工場で、電動式の重たい扉に体を挟まれました。不浄霊に「ドアを閉めろ」と怒鳴り続けたこの人は、皮肉にも重たいドアに自分が挟まれることになったのです。そして内臓を損傷して骨盤を骨折しました。命は助かりましたが、今でも起き上がることも歩くこともできずに、寝たきりの生活を強いられています」
私はうつむいたこの方に話しました。
「あなたや今、話した方がやっていたことは、無念の思いを抱いて亡くなった不浄霊に対する“挑発”になります。そして何度も怒鳴りつけて、不浄霊がそれに対してリアクションをとることは、霊とコミュニケーションを図っていることに他なりません。どのような形であれ、霊とコミュニケーションを取ることは、今まで以上にその霊とつながりやすくなるのです。だから結界を張っている中であっても、今までよりも強く霊障が出ることになったのです」
相談者は神妙に私の話を聞いて納得したようでした。私から見れば、この方もかなり不浄霊を挑発していましたから、霊は非常に怒っています。霊にも生きている人間と同じように感情はあります。生きている人でも、自分がバカにされたり、挑発されれば、相手に“やり返したい”と思います。それと同じなのです。それは結界を張っていて、苦しい空間にいても、不浄霊を頑張らせでそこに長くとどまらせてしまいます。その結果、自分が強い霊障を受けることになってしまうのです。