彼が彼女のアドレスへメールを送信したあと、まるでそれに返事を返すように、彼のスマホに電話がかかってきたのです。毎回、非通知からの電話ですから、相手先は分かりません。それでも彼はきっと自殺した彼女からのメッセージだと思っていました。ですからすぐに電話を取って、“もしもし、もしもし”と、何度も声をかけます。時には彼女の名前を呼んで、話しかけることもあります。しかし、相手はいつも無言で少し時間が経つと相手から電話は切られるのです。そしてこの電話も次第に内容が変わってきます。
最初のうちは、電話に出ても無言のままで、こちらから話しかけても何も返事はありませんでした。しかし、電話の向こうから、うなり声のように「う~、う~」という苦しそうな声が聞こえてくるようになったのです。すすり泣くような声が聞こえてきたこともあります。その声に彼は必死で語り掛けました。
「どうしたの、〇〇でしょう。苦しいのか、どうしたらいい?何かオレにできることがあったら何でも言って!」
「………」
しかし電話の向こうからは一言も返事はありません。そして相変わらずしばらくすると電話は切られるのです。
そしてこのころから彼の体調に異変が現れます。まったく食欲が湧かなくなったのです。自分でも少し太り気味だと思っていたので、それはむしろ大歓迎でした。ダイエットも何度か試したことがありました。ですからお腹が空かなければ、水分だけ補給してあえて無理して食べることも無かったのです。しかし、気が付いてみると、5日とか1週間とか、ほとんど何も口にせずに暮らしていました。それでも体調は良くて、むしろ快適に過ごしているのです。ただし、1か月も経たないうちにと体重はとうとう20キロも減ってしまいました。70キロあった体重が50キロになりました。そうなると友人たちがさすがに心配して声をかけてきました。
「体調、絶対におかしいから早く病院へ行った方が良いよ、げっそり痩せているぞ!これは普通じゃないから」
友人の声にも彼は耳を傾けません。それは体の状態はどこかが痛むとか、熱とか、震えとか、眩暈なども何もなく、元気でいたからです。鏡に映った自分の姿を見ても、頬が痩せて、目の下にクマができた他は特に変わりはありません。そしてこのころになると、彼は自分が願っていた通り、毎晩のように彼女の夢を見るようになっていました。夢に出てくる彼女は二人が仲良く付き合っていた時のまま、笑顔で彼に駆け寄ってきます。夢の中の二人は仲良くテーマパークへ出かけたり、山を登ったり、花火を見たり、ドライブをしたり、デートを重ねていたのです。彼は夜になるのが待ち遠しくて仕方ありませんでした。彼女は昼間寝ていても夢には現れません。しかし、夜寝ていると、夢の中に出てきて二人で幸せな時間を過ごすのです。気が付くと彼は一日中、彼女のことが頭から離れなくなっていました。その間、どんどん痩せてきましたが、友人にはいつも笑顔を見せていました。
「最近、別れた彼女がよく夢に出てくるんだよ、オレたち、すごく仲が良くて、幸せに付き合っている。夢の世界なんだけど毎日が楽しいんだよね」
そして、彼はついに職場で倒れました。病院に運ばれた結果は、貧血で大事には至りませんでした。ただ、職場の上司は霊感のある人だったため、
「きっと何かに憑かれている」と、確信して、面識のある私に連絡をするように彼に命令したのでした。(3)へ続く。