山で遭難しかかって、不思議な道を通って生還できたことは他にもあります。これはもう今の仕事を始めてからの話です。出張鑑定で家から100キロほど離れた北関東エリアまで車を運転して出かけました。そこは地方の都市部にある家でしたが、霊現象が続いていて「すぐに助けてほしい」という切羽詰まった依頼でした。私がお話をうかがっている最中から、この家に棲む古い霊は私のところにやってきて、挑発を繰り返していました。自分の力を私に示すために、物を落としたり、電化製品を誤作動させて私をひるませようとしてきます。私はこの日はお話をうかがい対処法を伝えるつもりでいましたから、除霊や結界を張る準備をしていませんでした。それでもかなり厄介な霊でしたので、私はその場でマントラを唱えてこの霊を鎮めました。そしてその場でお札を書いて室内に掲示するように伝えました。
「これでしばらくは静かになると思いますから、その間に本格的に除霊をして家の敷地内に結界を張った方が良いです。それでこの問題は解決できます」
私は一安心してこの家を離れました。私はこの地域には土地勘がありましたから、高速道路へ入るまで、近道をして裏道を通るように進みました。ナビの示した幹線道路は、途中に渋滞している交差点があります。ここを通過するのにひどい時は20分はかかってしまいます。そこを避けて蛇行している道を直線的にまっすぐ突っ切れば、ナビのコースよりも30分以上も早く高速道路に乗れるはずです。ただ、蛇行している幹線道路を突っ切るためにはおのずと山道に入ります。そこは道幅が狭くて舗装もされてない砂利道を通過しますが、そこを抜けてればスムーズに幹線道路に戻れます。私は幹線道路の国道から脇道にハンドルを切って山道に入っていきました。時間は夜8時を過ぎていました。辺りは真っ暗でしたが、この脇道は一本道です。狭くて危険な道でしたが、他に道はないはずですから道なりに進んで行けばよいのです。途中でダムへ向かう案内板や町役場の表示が目に入りました。
~あれ、こんな表示あったかなあ~
真っ暗な山道をナビも頼らずに一人で運転しながら、私はいつもとは違う違和感を感じていました。
~もしかしたら、先ほどのお宅から何か連れてきちゃったかなあ~
そんな不安を感じながら前だけを見て運転を続けていました。しかし、先へ進むごとに道幅は狭くなっていきます。そして崖の横をスレスレで通過したり、木の枝が倒れ掛かっている斜面を突破していくと、ついに藪の中で道のない行き止まりに突き当たってしまったのです。
~これは困ったなあ… このやぶを突っ切れるのかなあ~
私は今、今まで通ってきた脇道とは違う山道に入り込んだことに気づきました。そして停車した場所には車が何とかすれ違えるだけの道幅はあります。しかし、バックで戻っても道幅は車が通れるのかどうかギリギリで、下手をすれば戻ることもできなくなる不安が頭をよぎりました。私は思わず携帯電話を確認しました。案の定、アンテナは立っていません。ここからは誰か助けを呼ぶこともできません。私は車を止めてこれからどうするのか考えました。
しばらくすると前方からこちらに向かってゆっくりと進んでくる車のヘッドライトに気づきました。確かに車がゆっくりとこちらに近づいています。
~この先、道あるんだ~
私は思わず胸をなでおろしました。そして今こちらに近づいてくる車のドライバーに訊いてみようと思いました。対向車は年代物の古いトラックです。あちこちサビが浮いて汚れています。しかし、トラックであることが私に安心感を与えました。車幅のあるトラックが前から走ってきたのなら、私の車もこの道をまっすぐに進めるはずだからです。対向車はすれ違うのがギリギリの山道を正面からゆっくりとやってきて私の車の隣に並びました。対向車を見るとモンペのような服を着た痩せ細った老婆が車を運転していました。そして助手席には昔の作業着を着た小太りの中年女性が座っていました。
「すみません。この道はまっすぐ行って通り抜けできますでしょうか?」
私は運転席の窓を開けて、努めて笑顔で隣に並んだ車のドライバーに話しかけました。(8)へ続く。