以前、不動産業を営む方から、「借家人がすぐに引っ越してしまう物件があるのでお祓いをしてもらいたい」と頼まれました。私が訪れた賃貸アパートは木造で、6畳ほどの台所に四畳半ぐらいの洋室と和室が一部屋ずつとお風呂とトイレが付いていました。建物が木造で築20年以上も経っていますので、家賃は9万円と都内にしては格安です。新築でこの部屋を借りた方は、ここで約20年暮らしていました。しかし、田舎の実家へ引っ越していって空き部屋になりました。それから入居した方は、長くても半年、早い人は入居して1か月で引っ越していきました。もう5人の方が出て行っています。そして出ていく時には口々に
「風呂場のシャワーが勝手に流れ出す」とか「トイレの水が勝手に流れる」とか「お化けが出た、事故物件ではないか」
と不満を漏らして引っ越していったのです。建物の設備にクレームが入れば、その都度、業者に頼んで修理をしてきました。ほとんどは原因不明で不具合はないのですが、不思議な現象がしばしば続いている部屋なのです。私はこの部屋に入って、すぐに霊の痕跡を感じました。洋室の窓を開けてみると、目の前に廃神社があります。管理者のいなくなった神社仏閣は、良いものも悪いものも呼び込んでしまいます。さらに毎日勤行を積んで中を掃除する人がいないのです。ですから中に悪いものをどんどん溜め込んで、“心霊スポット”のようにひどい場所になってしまいます。きちんと管理している神社仏閣なら、パワースポットのように空気が清々として気持ちが良いのですが、悪いところは空気が澱んでいて、腐った生ごみのような臭いが立ち込めています。私はこの部屋に入ってすぐにその悪臭を感じました。
そして室内の壁は木材でできていて、壁紙は貼られていません。そして気になったのは壁の木材にはどの部屋も無数の小さな穴が開けられています。
「この穴は何の穴ですか?」
私は思わずそう尋ねました。
「最初にこの部屋を借りた方が、好きなタレントさんがいたらしくて、そのタレントのポスターを部屋中に貼っていたというのです。ポスターは木の壁に画鋲で止めていましたから、そのあとが部屋中にあるのです」
不動産屋の担当者は少しあきれたようにそう答えたのです。
「大家さんは借家人が出て行った後に、業者に頼んでハウスクリーニングはしないのですか?」
「少しケチな大家さんで、掃除なら自分がするから業者は頼む必要がないってきかないんですよ、引っ越すときに荷物はすべて持ち出しますから、そのあとは掃除機をかけて終わりです」
担当者はまたうんざりとしたように口を開きました。
「だから壁に画鋲の後がこんなに残ったままになっているのですね」
私はそう答えながら壁に残った画鋲の跡を触りました。
そしてその時、指の先に電気が走ったような感じがしました。
~これはタレントのポスターを貼ったあとではないぞ~
壁を触ってみて、私ははっきりとそう感じたのです。(2)へ続く