私は亡くなった娘さんがまだこの家にいると感じました。死んで肉体の無くなった魂は、しばらくは現世にとどまって旅に出ます。生まれた場所から死んだ場所までを何度も辿りながら、自分の人生を総括します。そして自分の人生に自分なりの答えを見つけ出して、納得してあの世へ上がります。そしてあの世では生きていた時の記憶を消されて、やがて来世へ生まれ変わります。死んでからあの世へ上がるまでの期間は個人差があって大きく異なります。普通の人生を送り、普通に亡くなっている魂であれば、死後49日~3年ぐらいの間にあの世へ上がります。自分の人生に多少の後悔は残していても、納得するような人生を生きてきた方は、早くあの世へ上がり、早く来世へ生まれ変わります。悔いばかりを残すような生き方をしてきた方は、あの世へ上げるまでに時間がかかります。事故で亡くなったり殺されたりした魂は、この世に強く執着しますからあの世へ上がるまでには相当長い時間が必要になります。「平家の落ち武者の幽霊を見た」という話を時々耳にします。源氏に滅ぼされた平家一族は、自分も殺され妻子も殺され、逃げ延びた一族も見つかればすべて処刑されました。きっと理不尽に殺された無念や源氏に向けられた憎しみは相当に強いものがあるのでしょう。「壇ノ浦の戦い」で平家が滅んだのが1185年です。ですから平家の落ち武者の霊がまだ現世にとどまっているとなると、837年間もあの世へ上がらずにいることになります。これだけ長い時間をかけても源氏に対する恨みや憎しみは解けることなく、今でも源氏の一族が滅びることを願っています。ただ、源氏の血を引く子孫はもう膨大に膨れ上がっています。彼らをすべて滅ぼすことはもう不可能なのに、恨みや憎しみの思いは消えることがないのです。

 

ですから池でご遺体が発見されてから1年ほどの娘さんの霊は、普通に考えてもまだ十分にこの世にいることになります。さらに不慮の死を遂げていれば、それだけ自分の死は受け入れにくいものですから現世にとどまる時間は長くなります。ただ、私にはコーヒーの表面に浮かんだ娘さんの顔が何かを訴えているように見えてしまうのです。そしてしばらくすると2階の娘さんの部屋で”ドン、ドン“という何かが落ちた音がしました。決して人を驚かすような大きな音ではありませんが、1階にいた3人がこの音を聞いているのです。私は両親と一緒に娘さんの部屋へ入りました。すると本棚に入っていた本が4~5冊床に転がっていました。そして勉強机の上の娘さんの写真立てが倒れていたのです。窓は閉まっていますから風で落ちることは考えられません。私がご両親と話を始めてすぐに起きたこの2つの出来事は、娘さんの霊が私に何かを伝えようとしているように思えてなりませんでした。

 

ご両人によると、娘さんの部屋では最近になっておかしな出来事が頻繁に起こっています。勉強机の上の写真立てが倒れることは良くあります。本棚の本や収納棚に載せたぬいぐるみ、人形、ゲーム機など、娘さんが大切にしていたものもよく床に散乱します。深夜になると玄関から階段を上がっていく足音がしばしば聞こえてきます。その足音は確かに娘さんの足音なのです。クローゼットに吊るしてある娘さんのお気に入りの服が何着も床に落ちていたこともありました。他にも居間でテレビを見ているときに、突然画面が消えたことがありました。ダイニングで食事をしているときに、明らかに料理の匂いとは異なるお線香やお香の香りが漂ってきたこともありました。ご両親はこれらの怪現象が起こるたびに、「娘さんが家に帰ってきた」と思っています。ですからこういった現象に直面しても不思議と怖いとは思いません。むしろ嬉しいとさえ感じています。ご両親のお気持ちは良くわかります。ただ、ご両親が娘さんを呼んでしまうことは、娘さんにとっては良いことにはなりません。亡くなった魂は、いずれはあの世へ上がり、輪廻転生をする定めにあります。ですから会いたい気持ちはあっても、早くこの世を離れて成仏するように祈ることが、娘さんの魂にとっては良い選択になるのです。(3)へ続く。

 


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