以前、家の中で怪現象が起こっているという地方都市のお宅へうかがったことがあります。その家にはまだ小学校高学年の娘さんがいましたが、1年前に事故で亡くなっています。その日、娘さんは、いつもなら4時半には帰宅するのに6時半を過ぎても帰ってきませんでした。塾の曜日ではありませんでしたが、ときどき塾の自習室を使って学校の帰りにお友達と一緒に勉強してくることがあります。お母さんは家で娘さんの帰りを待っていました。しかし、そろそろ夕飯の時刻になるのに戻ってこないのはおかしいと思い、まずは塾に確認の電話を入れました。そして塾に来ていないことを知ったお母さんはいつも一緒に下校しているお友達の家へ電話をしました。すると、お友達はもう帰宅していて、娘さんは「委員会があって残っていたので自分は先に帰った」と話しました。そこでお母さんは学校へ電話を入れました。すると残っていた先生が、「委員会はありましたが、5時には全校生徒が下校しています」と答えました。そして一気に大騒ぎになりました。小学校ではすぐに担任の先生に連絡を取って、娘さんが誰かお友達の家へ遊びに行っていないかクラス全員に確かめました。残っていた先生は全員、近所に娘さんを探しに出ました。そしてお母さんや友人の父兄も娘さんの捜索に加わりました。やがて時間は8時になり、「これは警察に連絡を入れた方が良い」と話していた時です。
「見つかったぞ!池だ!池に落ちてるぞ!」
大人の大声が静まり返った町に響き渡りました。
「救急車、救急車!」「警察も連絡しろ!」
慌てた大人の声が飛び交いました。
娘さんは通学路の近くにある池に洋服を着たままうつ伏せ状態で浮いていたのです。
救急車やパトカーのサイレンの中に、娘さんの名前を呼び続けるお母さんの悲鳴が悲しくこだましています。娘さんは救急隊によって病院へ運ばれましたが、すでに心肺停止状態でした。死因は溺死でした。その池は通学路からは少し外れたところにありました。日中は時折、釣りをする大人やザリガニを取る子供がやってきます。しかし、冬でしたから、委員会が終わった5時以降にはもう日は暮れています。暗くなったこの池を訪れる人はいません。しかも娘さんは泳ぎは苦手ですから、普段なら池に近づくことはありません。池の周囲は金網で覆われていましたが池にくる人によって、金網のあちこちに穴が開けられていました。警察は周囲に争った形跡はありませんし、着衣に乱れもありません。カバンは池の近くにきれいに置かれていましたから、「何かの理由で池の淵まで来て足を滑らせて転落した」と結論付けました。警察は付近を徹底して調べましたが、特に犯罪につながるような物証は何一つ見つからなかったのです。この結論を聞いた大人たちは、誰もが釈然としない思いを抱えたまま、この件は転落事故による溺死で決着したのです。
私がこの家を訪れた時、娘さんが亡くなって1年が経過していました。しかし、ご両親は娘さんの部屋を片付けることができずに、事故があった日のままにしていました。そして2階にある娘さんの部屋の勉強机には家族で旅行へ行ったときに写した笑顔でほほ笑む娘さんの写真が立てかけられていました。私は娘さんのお仏壇と勉強机に置かれた写真に手を合わせました。そして1階のリビングで話をうかがいました。ご両親と話し始めて5分も経たないうちに、テーブルに置かれたコーヒーが揺れ始めました。カップとソーサーは音を立ててカチカチと鳴り響き、コーヒーの表面には波紋が立っています。
~地震ですか~
私の体感では“震度2”はあったと思います。実際にコーヒーカップは音を立ててコーヒーは揺れていたのですから。しかし、テレビを付けましたが地震の速報はまったく流れません。
~霊現象か~
私がそう思った瞬間、コーヒーの表面に先ほど2階の勉強机の上で見た少女の顔がはっきりと浮かんだのです。(2)へ続く。