この画面を見た相談者の心にはみずきの声がはっきりと届いていました。
~お膳立ては整えました。ここまで整えればあとはあなたが好きなスイッチを押していただくだけです。どこから行きますか?必ず山上を追い詰めてください~
ここまでの情報を集めるには、みずきがかなりのお金を遣って探偵などに調べさせたことは容易に想像がつきます。相談者はこれらの宛先に連絡を入れて、「抗議をするのか」「嫌がらせをするのか」どうにでも対応することはできます。ただ、その前に相談者はみずきが今、生きているのか本当に死んでしまったのか、そのことが気になって仕方がありませんでした。そして翌日、会社が始まる午前9時を待って、勇気を出してみずきの勤め先へ電話をかけてみました。まずは業務報告書に書かれていた“みずきの直通電話番号”にダイヤルしました。
「ツー、ツー、ツー」
電話は何度もコールしているのに誰もでませんでした。そこで今度は会社の代表電話にかけてみずきの所属部署とみずきの名前を伝えた。すると明るい女性の声で電話はつながった。
「いつもお世話になっております。営業サポートデスク、△△です」
「私、◇◇商事の××と申します。お世話になっています。〇〇みずきさんはいらっしゃいますでしょうか?」
すると電話に出た女性はいきなり困惑したように重たそうに声をしぼりだした。
「〇〇はおりません。どのようなご用件でしょうか?」
「いないというのは席を離れているということでしょうか?何時ごろ掛け直したらお話しできますでしょうか?」
するとしばらく間をおいて電話口の女性は暗い声を出した。
「はい、〇〇は今こちらにはいません」
「それではどちらへ電話したらお話しできますでしょうか?大事な要件があるのですが?」
相談者が直ちに食いつくと女性は迷惑そうに口を開いた。
「ですからこちらの部署には、おりませんので、要件は私が承ります。今の連絡先はこちらではお答えできません」
この答えを聞いて、相談者は無言で電話を切った。そしてこの奥歯に物が挟まったような不可解な対応を聞いて、「おそらく本当にみずきは自殺したのだろう」と確信した。念のため、相談者はみずきの会社のメールアドレスへ架空の会社名で仕事を装ったメールを送った。しかし返信は来なかった。相談者は全身から力が抜けて、悲しみに心は揺れた。
~みずきは本当に死んでしまったのだ~
そしてしばらくするとみずきをパワハラの末へ自殺へ追い込んだ山上という男に対する怒りがメラメラと燃え上がった。
相談者は「パンドラの壺」に書かれていた山上の会社の直通電話を呼び出してみた。しかし、何回コールしても電話は誰も取らなかった。次に山上の自宅へも電話をかけた。しかし、自宅の電話も呼び出し音がむなしく響くだけで誰も電話には出なかった。そこでみずきのときと同じように、会社の代表電話から山上の所属部署を呼び出してみた。
「いつもお世話になっております。私、◇◇商事の××と申します。山上課長はいらっしゃいますでしょうか?」
すると先ほどとは違う声の女性がはっきりとした口調で答えた。
「申し訳ございません。山上は別の部署に異動になりまして、こちらのオフィスにはおりません。ご用件があれば私が承りますが、どういったお話でしょうか?」
相談者は少し驚いたものの、すぐにその女性に尋ねてみた。
「山上課長に直接お話ししたいのですが、異動先の部署と電話番号を教えていただけませんでしょうか?」
すると電話に出た女性は、困惑したように、
「申し訳ございません、異動先につきましてはこちらからは教えられないことになっております。ご用件があれば伝えますのでお知らせください」
相談者は丁重に断りを入れて電話を切った。相談者は山上とみずきの勤務先と山上の自宅へ電話を入れたものの、結局本人と話すことはできなかった。しかし、「パンドラの壺」に書かれていた情報が嘘でないこと。そして、山上という男とみずきという女が確かにこの会社にいたことは確認できた。(8)へ続く。