先日、自宅に置いた自分のパソコンの“秘密のフォルダ”を「妻に見られたらしい」という男性から相談を受けました。この男性は仕事を家に持ち帰ることも多いため、家には自分専用のパソコンを持っていました。妻は専業主婦ですが、結婚前はOLをしていましたからパソコンの操作は分かっています。妻は自分のパソコンはありませんが、買い物や検索用に自分専用のモバイルを持っています。ですから何か特別な事情がなければ妻が夫のパソコンを開く理由はありません。この男性は非常に警戒心が強いので、ノートパソコンの蓋に分からないように透明の小さなテープを貼り付けて、蓋が開けられれば分かるように細工をしていました。そして見られては困る動画や画像、そして文書は、もし誰かがパソコンを開いても簡単には見つからないように、普通では分からないフォルダの深いところに隠していました。さらにこの秘密のフォルダを誰かが開いた場合、それが分かるように設定していたのです。そこまで厳重に隠していた動画や画像は、性的な描写です。しかもこの男性は、普通の人とは違う変わった性癖がありましたので、その世界のマニア同士で、画像を交換したり、お互いに行ったやり取りを残していたのです。この男性は高校の教師をしていましたから、このような性癖が明るみになれば、処分されることはなくても、恥ずかしくて今の仕事は続けられなくなるでしょう。悪くすれば妻から三下り半を突き付けられて、離婚になるかもしれません。夫は変わった性癖のために、妻との夜の関係は結婚以来、ほとんどありません。それでも妻を愛していましたから、離婚する気はまったくありませんでした。
そして、この男性が顧問をしている部活動の合宿から10日ぶりに帰宅したとき、すぐに自分の部屋へ入って、ノートパソコンを確認しました。すると蓋に張り付けていた小さなテープは剥がれて、周囲にもありませんでした。おそらく一度ではなく、何度もこのパソコンは開かれていたのでしょう。そしてパソコンの中の秘密のフォルダをチェックすると、誰かがこのフォルダを開いた形跡がしっかりと残っていたのです。男性は焦りました。自分以外にこのパソコンを開くのは妻以外には考えられません。妻がもし、これらの動画を見てあきれて笑ってくれるならまだ良いのです。しかし、このことをシリアスにとらえて自分の家族や友人に相談された場合、ご主人の立場はありません。変態扱いされてさげすまれるのは見えています。今、合宿から戻って1週間が経過しましたが、妻はいつも通りの対応をしています。明るく笑顔で夫を迎えてくれます。それでも妻にフォルダの中を見られたことを知っているご主人からすると、毎日が針の筵(むしろ)に座る気持ちなのです。「いつ妻からこのことを切り出されるのだろうか?」「親戚などには話していないだろうか?」考えれば考えるほど不安は広がっていきます。そこで
「いっそうのこと、自分から切り出してみようか」
そう考えたことも何度もあります。しかし、妻が見たことを自分が知っているということは、自分が妻を疑って、パソコンに細工をしたことも明らかになります。それは性癖とは違った意味で、妻に不信感を抱かせることになりかねないのです。そんなことで毎日頭の中がいっぱいになり、どのように対処したらよいのか、私に相談してきたのです。私は彼に尋ねました。
「合宿から戻った後の奥さんは、それ以前の奥さんと比べて何か変化はありませんか?言葉には出さなくても、あなたと目線を合わせないとか、嫌な含み笑いをするとか、そのようなこともないのでしょうか?」
男性はしばらく考えた後でゆっくりと答えました。
「ありません。自分には後ろめたさがありますから、その分、普段よりも敏感になっています。敏感な目で妻を見ても、妻の言動は合宿へ行く前と何ら変化は感じないのです。だから余計に不安になるのです」
私は男性の話を聞きながら神経を集中しました。そしてこの間の奥さんの行動を感じ取りました。(2)へ続く