相談者は深夜にかかってきた間違い電話に、非常に腹が立ちました。夜中の1時を過ぎて、“間違いだ”と何度も言っているのに一方的に話し続けて、こちらが注意をしたら逆切れして電話を切られたのです。それで腹を立てるのは当然のことです。しかし、時間が経過して怒りが収まってくると、今度は不安が広がってきました。

~いったいどうしてうちの電話番号を知っているのか~

相談者の電話は“ナンバーディスプレイ”になっていましたので、相手の電話番号をすぐに確認しました。表示された電話番号をスマホのアドレス帳でチェックしましたが、該当する知人は一人もいませんでした。

~また、まさかは思うけど、本当にうちの住所を知っていて、これからやってくることはないだろうか~

そんな心配も頭をよぎりました。ただ、相談者が住んでいるのはマンションの5階です。マンションのエントランスはオートロックになっていますから、住人以外はそう簡単には侵入できません。相談者は思わず、玄関ドアのカギを確認して、普段はかけないチェーンを念のためロックしました。そして部屋の明かりをつけて、しばらくは起きていたものの、静かに時間だけが過ぎていく中で、だんだん睡魔が襲ってきました。そして明かりを消して、ベッドに入り眠りにつきました。ちょうどその時です。

“ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン”

しつこいインターフォンの音に気持ちの良い眠りから突然起こされました。時計を見ると、ちょうど午前2時を過ぎたところでした。

~まさか、本当に訪ねてきたのか、しかも丑三つ時じゃないか~

ベッドから出て静かにインターフォンの画面に見入りました。画面には黒いズボンに黒いジャンバーを着た男の背中が写っています。その画像を凝視しながら、

“絶対に出たらいけない”

そんな考えが頭を渦巻きました。

~エントランスはオートロックだから、私が開錠しなければ誰も入り込むことはできない~

自分にそう言い聞かせて、明かりは消したまま、ベッドにもぐりこみました。そしてまんじりともせずに、息を殺して時間が過ぎることを待っていました。ただ、しばらくすると、

“コツ、コツ、コツ、コツ”

固い革靴のかかとがコンクリートに当たるような冷たい音が、ゆっくりとしたリズムで同じフロアから響いてきました。しかもその音は、明らかに一歩ずつこの部屋に近づいています。相談者はベッドの中で恐怖に震えていました。ちょうどその時です。

“ピンポーン、ピンポーン”

この部屋の玄関のインターフォンのチャイムが静まり返った室内に鳴り響きました。

~どうしてオートロックのエントランスを入って来れるんだ、あり得ないだろう~

気が付くと相談者は金縛りに遭ったように体を動かすことができません。さらにしばらくすると、廊下からリビングに入るドアの開く、“キー、キー”という蝶番(ちょうつがい)の金属音が聞こえたのです。これでリビングから寝室までは木製のドア1枚で仕切られているだけです。

~助けてくれ、来ないでくれ、来るな~

心の中で必死に念じている相談者の前で、寝室に入る木製のドアが“バタン”という大きな音を立てて開かれたのです。

 

相談者が覚えているのはここまでです。その後どうなったのか分からないまま、目が覚めると外は明るくなっていました。ただ、廊下からリビングに入るドアも、リビングから寝室に入るドアも、これ見よがしに大きく開けられていたのです。相談者は暗い夜が明けたことにひとまずホッとしました。そして勇気を出して、ナンバーディスプレイに残った番号へ電話をかけてみました。すると

「おかけになった電話番号は現在使われておりません」

そのメッセージが不気味に繰り返されていたのです。

 


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