先日、友人同士で旅行へ出かけてから体調を崩したという方から相談を受けました。その方によると会社の仲の良い同僚4人で東京近郊の観光スポットへ旅行へ行くことになりました。そこは山や高原や温泉もある人気のエリアです。車で東京を出発した4人は、現地に着くと人気のレストランで地元の和牛料理を堪能した後、近くの山へ向かいました。山と言っても本格的な登山を行うような高山ではありません。高原地帯から徒歩で1時間も登れば、眺望の素晴らしい山頂の見晴らし台に到着します。4人は山の麓に車を止めると、ペットボトルを片手に、急な山道を登り始めました。途中で何度か休憩を取りながらも着実に山頂は近づいています。階段状になっている細い山道を登るとその上には、広場のようは平たんな空き地が広がっています。息を切らせながらそこまでやってきた4人は、空き地の中を一周しながら腰を下ろして足を休める場所を探しました。すると一人がテーブルのように丸く広がった石の台座に建てられた何かのモニュメントを見つけました。背後から近づいたため、モニュメントの内容は分かりませんでしたが、丸い石の台座は腰を下ろすにはちょうど良い高さでした。4人はここに腰かけて、水分を補給しながら疲れた足腰を休めました。しばらくすると一人が立ち上がり、台座の反対側へ回り込みました。するとその男性は、
「これ、ヤバくないか。内容は良く読めないけど“慰霊碑”って書いてあるだろう」
そう声を張り上げました。
4人は慌てて座っていた石の台座から飛び上がりました。そして石に刻まれた読みにくい文字を判読しました。そこには確かに「戦争」という文字と「この村の地名」と「慰霊」という言葉が書かれていました。これは日清戦争以降の戦争でこの村から出征して亡くなった方々を慰霊するための慰霊碑だったのです。
「俺たち慰霊碑の上に座ってたのか、それヤバいだろ」
誰かが力なくつぶやきました。一瞬沈黙が広がり、誰も口を開きません。4人はしばらく押し黙ったまま山頂を目指してまた歩き始めました。
そんなことがありながらも、4人は山頂から見える素晴らしい眺望を楽しみ、宿泊先のホテルに戻りました。そこでは温泉につかり、宴会場では地元産の料理に舌鼓を打ちながらお酒も飲み干しました。そして4人部屋に戻って気持ちよく熟睡したのです。しかし、ビールや日本酒をたくさん飲んだためか、私の相談者は、トイレへ行きたくなって深夜に目を覚ましました。時計を見ると午前2時を指していました。トイレを済ませて室内を見渡すと、3人はいびきをかいて気持ちよさそうに眠っています。相談者もすぐに布団の潜り込んで眠ろうとしました。しかし、その時です。
“コツン、コツン”
と廊下の絨毯の上から固いものが当たるような音が鳴り響いています。その音は初めはフロアのかなり離れた場所からかすかに聞こえていました。しかし、まるで軍靴を履いた兵士が足音を立ててこちらに向かうように、ゆっくりとした一定のリズムでその音はこの部屋に近づいてきたのです。その瞬間、相談者は布団の中で鳥肌が立ちました。布団の中にいるのに急に室内は冷気が流れ込んだように温度が下がったのです。そして一段と大きくなった足音は部屋の前まで来るくるとピタッと止まったのです。
相談者は布団を頭までかぶりながら寒さと恐怖に震えました。そして次の瞬間、はっきりとした音で
“コン、コン、コン”
と部屋のドアがノックされたのです。相談者は声を上げることも身動きすることもできません。ただ、このノックに反応して出てはいけないと強く思いました。そのまま布団にもぐり続けたのです。そしていつしかそのまま眠り込んでしまいました。翌朝目が覚めると、両肩が重りを乗せられたように重く痛んでいました。そして朝からお腹を下していて何度もトイレへ駆け込みました。
私が相談者の顔を見ると、顔の中にもう一人の顔が重なって見えました。視線を下にずらすと昔の兵隊が来ていた軍服が見えました。肩には重たそうな銃剣をぶら下げています。当時の兵士は戦場で汚い水を飲んで良くお腹を壊していました。相談者の肩の痛みや腹痛は、慰霊碑から連れてきてしまった兵士の霊の状況が体に投影されたものでした。そして除霊を行うことでこの霊を退散させると、相談者の状態は間もなく改善されていったのです。