いったい何が彼をここまで変えてしまったのでしょうか。私はさらに時間を戻して変わり果てた彼の身に何が起こったのかを探りました。彼はイケメンで人柄がよく、仕事もよくできました。出世コースの海外赴任から戻りましたから、会社では彼に憧れる女性社員もいました。その中には会社の役員の娘さんもいました。このお嬢さんは美人でしたがプライドが高く気の強い女性でした。学生時代から取り巻きを引き連れて、思い通りに生きてきました。恋愛についても男性からはしばしば言い寄られ、自分が気のある素振りを見せれば、男性は誰でも自分を選ぶと思っていたのです。社内でこの女性は何度も彼にモーションをかけました。しかし、彼はお嬢さんには見向きもせずに彼女と結婚したのです。それでもお嬢さんは彼を諦めることができませんでした。それはそれだけ強く彼を愛していたからではありません。自分が今まで彼にさんざんアプローチしてきたのに、自分を袖にして他の女性と結婚した彼が許せなかったのです。プライドの高いお嬢さんは、自分が振られた事実を認めることができずに彼に固執していたのです。ある日、お嬢さんは社内の使われていない会議室に彼を呼び出しました。そしておもむろに上着を脱ぐと、彼の首に両手を回して抱き着いてきたのです。まるでドラマのワンシーンを楽しむように悪戯っぽく微笑みながら彼の耳元で「好きにしていいよ」とささやいたのです。

 

ちょうどそのとき、会議室が無人だと思った総務課長がドアを開けて入ってきました。課長は上着を脱いで上半身下着姿で抱き合っているお嬢さんと目が合いました。課長は二人に向かって驚いで怒鳴りました。

「いったい何をやっているんだ、勤務時間中に!」

課長の剣幕に驚いたお嬢さんは、一瞬言葉を失いました。そしてこの状況を取り繕えなくなった彼女は、苦し紛れに声を出しました。

「課長、〇〇さんが、急に私のブラウスを脱がして抱き着いてきたのです!私、今、〇〇さんに襲われていたんです!」

彼女はそういうと顔を隠して号泣したのです。

「違います、課長聞いてください、私はそのようなことはまったく…」

彼は必死で弁明しようとしましたが、突然の状況に気持ちが動転して上手く説明することができません。そんな彼の様子を見た課長は

「いいから君はここにいなさい。そしてあなたは早く服着て医務室へ行きなさい」

そう冷たく言うと、泣き止まないお嬢さんを廊下へ促しました。

 

お嬢さんには彼を陥れる気持ちはありませんでした。自分が少しエッチにモーションをかければ、彼もきっと「自分の手を握り返してくる」と考えただけでした。何も深く考えないで感情に任せて無責任に彼を口説いのです。しかしこの一件が、堅物の総務課長に目撃されて、ただで済むわけがありません。彼は女性社員を会議室に呼び出してレイプしようとしたとして、会社を懲戒解雇されました。彼はコンプライアンス室に何度も申し開きをしましたが、見解が異なる彼とお嬢さんの言葉のどちらを取り上げるのかは火を見るより明らかでした。彼は総務課長から

「警察に被害届を出さなかったことをありがたく思いなさい」

と冷たく言われて会社を去ったのです。(4)へ続く。

 


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