ご主人は物置から戻ると、スコップで玄関へ向かって敷かれている平石の踏み石を一枚ずつ丁寧に裏返していきました。しかし薄茶色の御影石の裏面には何の文字もキズも刻まれていませんでした。そして踏み石を1枚ずつ触ってみましたが、霊的なものがこもっている感じはしませんでした。

「確かにこの辺りから霊的なものの臭いが漂っているのですが…」

私は踏み石の置かれた辺りにしゃがみこんで、踏み石の周囲に敷かれている砂利を手に取りました。

「あれっ?」

数多く撒かれている砂利を手に取ると、いくつかの石がつるつるして他の石とは違う感触が残りました。よく見ると撒かれている石には砂利と一緒に砕石が混じっていました。砂利と砕石はまったく異なるものです。砂利は長い年月をかけて、川や海の中を転がることで、角が削れてできた丸く小さな石の集まりです。砂利は普通は直径2~5センチ程度と小さめで、浜辺や河原などから採取します。砕石は大きな岩石をクラッシャー(粉砕機)で人工的に砕いて作ったものです。砂利のように自然にできたものではありません。砕いたときにゴツゴツとして角ができるのでサイズもバラバラで不均一です。ただ、砕石は圧力をかけた時に、角があるために、石同士がしっかりと噛み合って地盤が固まります。私が手にした石は、大きさがバラバラで形状は尖っています。それはまさに砕石なのですが、表面が磨かれたようにつるつるとしています。岩石をクラッシャーで砕いた後に、表面を磨くという作業は普通は行いません。私はどうして砕石の表面がつるつるに磨かれているのかその理由を一瞬考えました。しかし、これは石を砕いてから磨いたのではなく、つるつるに表面を磨かれた石がクラッシャーで砕かれてものとすぐに気づきました。しかも、この石は白の御影石です。つるつるに磨かれた白の御影石と言えば、それが使われる用途として真っ先に頭に浮かぶのは“墓石”です。私はこの石を手に持ってご主人に尋ねました。

「これは砕石ですよね、踏み石をしっかりと固定するために、見栄えの良い砂利をよく撒きますが、そこに砕石を混ぜたのですか?」

ご主人は私の質問に少し驚いたようですが、すぐに答えました。

「そうです。砂利よりも砕石の方が単価が安く、しかもよく噛み合って地盤が固まりますので、砂利に砕石を混ぜて固めました。それが何か問題でしょうか?」

そう言って怪訝そうに私の顔を覗き込みました。私はつるつるに磨かれた白御影石の砕石を手に取ってご主人に見せました。

「この砕石をよく見てください。この石からは霊的なものの臭いが強く漂っています。これは普通の砕石ではなく、墓石を砕いたものです。いきさつは分かりませんが、墓石をクラッシャーで砕いたものが、砕石の中に混じり込んでいます。つまり、ご主人は新しい家の門扉から玄関までを誰のものとも知れない墓石で固めてしまったのです。これがご家族の皆さんのタイミングを狂わせたり、体調を悪くさせている原因です。直ちにすべて取り除いて、踏み石の周囲は念のため砂利だけで固めてください」

ご主人は私の言葉に驚くとともに、庭に撒かれたすべての砕石をスコップで集め始めました。そして怒りと恥ずかしさに顔を紅潮させながら私に言ったのです。

「石屋にはこの砕石を見せて、いったいどういう経緯でこういう石が混ざっているのか追求します。明日にはクレームを入れて、石の代金も返してもらいます」

そして少し、感情が落ち着くとさらに話し続けました。

「せっかく念願のマイホームを建てたのに、それから家族の具合が悪くなって、本当にどうしようかと悩んでました。今さら引越しをすることもできませんし…。でもシュンさんのおかげで原因がはっきりして安心しました。まさかこんなことになっているとは夢にも思いませんでした」

ご主人の表情にはやっと安堵の笑顔が戻りました。その笑顔を見て、私も安心してこの家を後にしました。

 


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