このバブル時代に土地の売買から早めに手を引いて、賃貸業を中心に会社の経営を続けた不動産会社の社長がいました。土地を購入すれば大きな利益を手にできるのに、わざわざ利益の少ない不動産賃貸業へシフトチェンジしたのです。社長は当時は仕事仲間から「頭が狂ったのではないか」と本気で思われたそうです。しかし、土地の売買に奔走して大きな利益を上げた不動産会社や都市開発業者はバブル崩壊とともに、ほとんどが倒産して無くなりました。しかし、この社長の不動産会社は、売買から賃貸中心に方向転換したことで、今現在も店舗を増やして堅実に成長しているのです。この社長は昔から迷ったときには会社の方向性について、しばしば私に相談に来ました。私はある時、社長に率直に尋ねました。

「社長はバブル全盛の時に、会社の形態を売買から賃貸移行しました。当時の不動産業界では土地の売買で、多くの会社が莫大な利益をa上げていました。しかもこの仕組みは地価が下がらない限りは儲かりますし、戦後、都心の地価が下がったことは一度もありません。それなのにどうしてあの時、会社のスタイルを転換したのですか。周囲からも大反対されたでしょう」

社長はニヤリと口元で笑うと私を横目で見ながら口を開きました。

「そりゃあ、周囲からは大反対されましたよ。今、儲かっている仕事をわざわざすてて、利幅の少ない仕事をしていくわけですから。社長解任なって話まで出ましたよ」

社長は今度はきちんと座り直して正面から私を見据えて話しました。

「今でもときどき講演会を頼まれるんですよ。バブル崩壊を見事に乗り切った不動産会社社長ということでね。そこでは私も後から評論家が解説している理屈を覚えて、偉そうなことを話しています。そうしないとお客さんも主催者も喜びませんからね。結果が分かった後で、それを肯定するもっともな理由をつけることなんて誰にでもできますから。でも、本当の理由は全く違うんですよ。シュンさんならお分かりだと思いますが…」

社長はそう言って、いたずらっぽく私の顔を覗き込みました。私は

「これですか?」

私は軽く握った右手をこめかみの辺りまで上げたまま、パッと指を広げて、社長を見返しました。

社長は少し照れくさそうにこちらに一瞥をくれた後、小声で話し始めました。

「そうです。ひらめいたんです… 明確な根拠なんて何もありませんよ、ただ、みんなが浮かれて土地を買いあさっている状況を間近で見てきましたから、何か起こるような予感はあったんです。ただ土地を買うだけで1年間に何億も儲かるなんてことが、いつまでも続くわけがありません。私も土地の売買で儲けていたころは、自分でも訳が分からないまま、毎晩うなされるぐらいに嫌な予感にさいなまれていたんです。だからいずれ何かが起こったときに、一番安定してる土台を作りたくて、薄利でも絶対にニーズの無くならない賃貸に賭けてみようと考えたんです」

この社長は昔から私に相談しているように、霊的な間口が非常に広くて霊体験も何回も重ねています。ですから自分に発せられている警告が、近いうちに必ず現実化されるという根拠のない自信を持っていたのです。

 

人生を上手く生きていくためには「頭で物事を考えること」と「心で感じること」のバランスが必要になります。頭でする選択や判断はデータや情報や理由のある問題には正確に答えを出すことができます。ただし、今までに起こらなかった出来事や知識や経験のない問題には全く対応することができないのです。こういった状況でも正解を導くためには、日ごろから心のアンテナの感度を高めて、自分の感覚として正解を感じられる訓練をしておくことが必要になるのです。

 


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