先日、東京オリンピック陸上女子やり投げで獲得した銀メダルを、生後8か月で心臓病を抱えた男児の手術費用のためにオークションに出品したマリア・アンドレイチク選手(ポーランド)の心温まる話をこのブログで書きました。生涯の宝物になる銀メダルを見ず知らずの男の子のために出品したマリア・アンドレイチク選手は立派でした。またそれを落札して無償で返還したポーランド企業も素晴らしいと思いました。
人は時にずる賢く考えたり、他人を冷酷に傷つけたり貶めることができます。人の心の中には誰でもそんな非情で汚い面が内包されています。ただ一方で、人は誰かを思いやったり、時には自分を犠牲にして誰かを助けることも支えることもできます。人が心の中の良心に基づいて善意を表すとき、多くの人に感動を与たり、愛情の尊さに気づかせてくれることもあります。今回もたまたま見かけた記事の中に心温まる善意のストーリーがありましたので、それを紹介しようと思います。
大阪府在住の「leiz」さんは、「しるく」という名の猫を飼っています。しかし今年5月、しるくが“猫伝染性腹膜炎”という難病にかかっていたことが判明しました。この病気は長く不治の病とされてきた難病で、しるくの弟猫もこの病気で亡くなっていました。しかし近年は投薬によって完治した治療例がいくつか報告されていますから不治の病ではなくなりつつあります。ただ、この薬は国内未承認の試薬のためにとても高額で、100万円を超える費用が必要になります。そこで「leiz」さんは、しるくの治療費を工面するために、27年間乗り続けてきた愛車を売って治療費に充てようと思いました。その車は北米仕様(左ハンドル)のMA70型トヨタスープラです。この車は1989年から1993年まで販売されていました。もう30年前の古い車ですが、左ハンドルの日本車ということもあって希少車になっています。「leiz」さんは、オークションサイト「ヤフオク」に、治療費全額の概算「270万円」で出品しました。
この出品情報を車を探していた滋賀県在住の「Yuto」さんが見つけました。そして、「無事に車の買主が見つかって、猫の治療ができますように」とTwitterに書き込んだのです。するとこの投稿はすぐに拡散しました。そして「Yuto」さんは「leiz」さんを支援するために寄付を募る方法などを調べました。
オークションの最終日、大阪で建設業を営んでいる「masakoba」さんが、実車を確認することもなく、即決価格でスープラを落札したのです。「masakoba」さんは複数の旧車を所有するカーマニアで、自分自身、大病を患った愛犬の治療に高額を支払った経験がありました。また、同じ旧車マニアとして、愛車を手放す「leiz」さんの思いを察して、
「古い車で修理箇所がたくさんあるので値段を割引したい」
という「leiz」さんの申し出を断って、すぐに270万円を支払ったのです。そして「leiz」さんはスープラの売却代金と集まった寄付金を使って、すぐにしるくの治療を開始しました。「Yuto」さんの助言もあって開設した「leiz」さんのオンラインの寄付の窓口には、250人以上から総額50万円を超える寄付が集まったのです。その中には、なけなしのお小遣いを寄付した母子家庭の小学生もいたのです。
しるくは善意と励ましの思いがこもった投薬注射を痛みと痒みに耐えながら受け続けました。病状は当初は一進一退していましたが、8月の精密検査でついに検査結果が正常値に戻ったのです。結果的に治療期間は予定よりも伸びて、治療開始から100日が経過していました。そして現在でも経過観察が必要で2週間に1回の血液検査が続いています。治療が終わった時点で「leiz」さんは、
「皆さまのおかげでしるくが無事に回復することができました。本当にありがとうございました」
と改めて支援への感謝を述べています。そしていつか「Yuto」さんや「masakoba」さんたち支援してくれた皆さんを呼んで、謝恩パーティーを開きたいと強く思いました。そして特に、治療の間ずっとLINEで励まし続けてくれた落札者の「masakoba」さんには、その気持ちに報いるためにも
「再来年2月の車検までには、お金をためて必ずスープラを買い戻せるように頑張ります。そして買い戻すことができたら、元気になったしるくを車に乗せて、海岸線をドライブしたいです」
と、治療を終えた後の夢を語ったのです。(2)へ続く