マネーロンダリングは、日本語では資金洗浄と訳されます。麻薬取引や脱税、粉飾決算などの犯罪行為によって得られた資金(汚れたお金)を出所をわからなくするために、架空または他人名義の銀行口座などを利用して、転送や送金をしたり、株や債券を購入したり、寄付などを行ってごまかすことを言います。これは捜査機関からの差し押さえや摘発を逃れるための行為で、世界中で闇のお金として悪用されることもあります。もちろんマネーロンダリングは、法律で禁止されています。
先日、私に相談された方は、犯罪行為ではありませんが、自分に入ってくる現金が何か自分に災いをもたらすことがないかと心配していました。その方は自分の母親と二人で、自分の伯母にあたる高齢者の面倒を見てきました。その方は高齢のために、寝たきりではありませんが体の自由が効かなくなっていました。お子さんも配偶者もいないため、自宅で一人暮らしをしていたのです。このお婆さんは若いころからお金に異常な執着を持っていました。結婚をせずに生涯独身を貫いたのも、配偶者となる男性が、結婚してからお酒やギャンブルや遊興にお金を費やす可能性を恐れてのことでした。それはお婆さんの知り合いの中に、夫の放蕩三昧で苦労した女性が何人もいたことが影響しています。真面目で働き者の夫と結婚すれば、一人で働くよりもお金がたまる可能性もあります。でも、結婚相手を結婚前にどれだけ吟味しても、結婚してから変わってしまう人は数多くいます。配偶者が結婚後に、どのように変わるのかは、結婚してみなければわかりません。配偶者によって苦労させられる可能性があるなら、一層のこと自分一人で慎ましく生活した方が、安心できると考えたのです。ですから親族や友人ともほとんど付き合いはありません。人付き合いはお金がかかってしまうからです。
お婆さんは、一人でたくさん仕事を抱えながら、質素な生活をしてきましたから、高齢になった今はかなりのお金を持つようになりました。体を悪くしてからは、ヘルパーやデイサービスを頼めば自分が楽になるのですが、それも「お金がもったいない」と言って頼みません。その代わりに相談者の女性とお母さんが、お婆さんの家に毎日のように通いながら生活の面倒を見てきたのです。そんなお婆さんもさらに体が動かなくなってきたため、生活の中での危険も考えて、永住型の施設に入居することにしました。そして、自宅を出ていくにあたり、片づけをしていた相談者の母子にお婆さんはこう言ったのです。
「今まで、あなたたちには本当に世話になったわね。これから施設に入れば、食事も生活も職員が面倒を見てくれるから安心できる。私は不動産は何も持ってないけど、今までコツコツと貯めたお金があるから、半分をあなたたちにあげるわね。残りの半分は施設に入ってから何があるかわからないから、一応私が持っておくけど、それも死んだらあなたたちにあげるからね」
二人は目を見合わせて驚きました。ケチで有名なお婆さんからは、今までどれだけ献身的に世話をしてきても何一つもらったものはありませんでした。お菓子の残りや食べ残した夕飯のおかずも、「明日食べるから」と言って一度ももらったことはありません。そんなお婆さんが今まで50年以上も溜めてきた大切なお金の半分を施設に入居する前に渡すというのです。
ずっとお金に強く執着しているお婆さんは、不動産も持ちませんし、株や債券などに投資することもありませんでした。投資は常にマイナスになるリスクを伴います。不動産だって、戦後土地の値段はずっと上がり続けてきましたが、バブル崩壊によって値下がりするケースも出てきたのです。お金に執着しているお婆さんは、お金を増やすことよりも、減らしてしまうリスクの方を何よりも恐れたのです。(2)へ続く。