人の記憶はとても曖昧なものです。自分では「確かにそうだった」と思った出来事が、後で確認してみると違っていたということは多くの人が経験しています。たとえば小学生の頃に同じクラスで仲良くしていた親友がいました。彼との思い出は心の中にたくさん残っています。しかし、何十年ぶりで再会したところ、その子とは同じクラスではありませんでした。自分では同じ教室の中で授業中に話し込んで先生に注意された記憶もあるのです。しかし、彼は別のクラスですから、同じ教室の中で授業中に話をすることはあり得ないのです。

 

社会人なって久しぶりに都会から離れた地方都市にある実家へ戻りました。久しぶりに会う同級生とは会話も弾んで、他の友達の家へ遊びに行くことになりました。車で友人の家へ向かっている途中に大きな娯楽施設の横を通りました。

「へえ、ここにこんな施設ができたんだ」

ところが車に同乗している友人は

「えっ、今さら何言ってるの?君がここにいた20年以上前からここにあったでしょ。確か、みんなで遊びに来たこともあったよ。覚えてないの?」

そう言っていぶかしげに顔を見て笑いました。その場は取り繕いましたが、自分ではこの施設は全く記憶にありません。行ったこともあったことさえ覚えていないのです。実家の近くにある大きな施設ですから忘れていることはあり得ません。

 

こういったことが、物忘れや勘違いによって生じているなら大きな問題ではありません。それは誰でも多かれ少なかれ起きていることです。しかし、同じ記憶違い、勘違いを同時に何万という人がしているとなると意味は違ってきます。現実には起きていなかった事件・事故、或いはあるはずのないものを何万という人があると勘違いしたようなことが、世界中で今までに何度も起きています。それが「マンデラ・エフェクト」です。

 

マンデラ・エフェクトのマンデラとは、南アフリカの政治家・弁護士で、反アパルトヘイト(反人種差別政策)に尽力して、27年間の獄中生活ののちに、ノーベル平和賞を受賞して大統領になったネルソン・ホリシャシャ・マンデラのことを指しています。マンデラは1918年7月18日に生まれて2013年12月5日に亡くなっています。しかし、マンデラがまだ存命中の2010年、「マンデラは1980年代に獄中死した」という記憶も持つ人が、世界中にたくさん現れたのです。この怪現象に対して、「マンデラ効果」という言葉がネット上で使われるようになったのです。

 

同じような怪現象は世界中で数多く報告されています。マンデラと同じように有名人の死亡時期に関しては、日本でも宮尾すすむさん、志茂田景樹さん、小林亜星さん、常田富士夫さんなどが、存命中にも関わらず、多くの人からすでに亡くなっていたと思われていました。1989年6月4日に中国で民主化を求めてデモ隊が政府軍と対峙した天安門事件は、その映像が世界中に映し出されました。事件の翌日にデモ隊を制圧するために市中に現れた59式戦車の前に、一人の青年が立ちはだかりました。戦車は行く手を遮った青年を避けて進もうと、何度も迂回しています。やがてこの青年は戦車に飛び乗り、戦車の中の兵士と口論した後、心配した多くの市民によって群衆の中に引き戻されました。しかし、この映像を見た世界中の人々の中で、この青年が戦車にひき殺されたと記憶している人が多数いるのです。他にも昭和時代の人気アニメ「巨人の星」のオープニングで、主人公の星飛雄馬が、トレーニングのために、整地ローラーや古タイヤを引いていると記憶してる人がいます。しかし、実際にはそのようなシーンはありませんでした。また、ピカチュウの尻尾の先が「黒い」とか、「今は黄色だが昔は黒かった」と記憶している人が数多くいます。しかし、実際には1996年にピカチュウが登場したときから尻尾の先は黄色だったのです。他にもオーストラリア・ニュージーランド・スリランカ・日本列島など、大陸や島の位置を間違って記憶している人も数多くいます。個人的な単なる勘違いではなく多くの人たちが誤った記憶を持つ“マンデラ・エフェクト”はどうして起こるのでしょうか。(2)へ続く

 


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