私はこの方に尋ねました。

「あなたは今、二人のお子さんの父親になっています。東京を離れて故郷で実家の田畑を借りて農業をしています。私にはようやく安定した生活を手に入れたように見えますが、いかがでしょうか?今、妻子とともに故郷で生きていることが、幸せとは感じませんか?」

この方は、はっきりとした口調で私に答えました。

「はい、私も太宰と同じように、若ころからすさんだ暮らしをしてきました。ですから今の暮らしは自分でも信じられません。毎日、同じことの繰り返しですが、その中でも子供は確実に大きくなっていきます。心穏やかに妻子とともに暮らす日々に大きな幸せを感じています」

私は彼に話しました。

「たとえば占いの本を見た時に、自分と同じ誕生日の有名人がいれば、それからその人のことを意識するようになります。ましてや太宰治のように強烈な生き方をしてきた人であれば、その人の生涯を知ったときに、自分では意識しなくても無意識のうちにその人に合わせてしまうことがあります。あなたが太宰治の存在や彼の生涯を知ったのはいくつの時ですか?」

「はい、中学2年生の時です。ものすごく衝撃を受けたのでよく覚えています」

彼はきっぱりと答えました。

「あなたの人生が決まっていくのはまさにそれからだったと思います。幼少期や子供時代は自分で人生を選択できません。自分の考えによって人生の方向性が決まっていくのは、思春期以降です」

「………」

「ですから、中学2年生の時にあなたの潜在意識に刻み込まれた太宰治の年表をあなたが無意識のうちに追い求めていた可能性は非常に高いのです」

彼は黙ってうなずいています。

「そして今、あなたが私に語ったように、あなたは安定した穏やかな暮らしに幸せを感じています。ご承知の通り、太宰治は死ぬまで酒と女と薬に溺れて、最後は愛人と心中して死んでいます。太宰に穏やかに落ち着いて暮らす人生の時間はありませんでした。もう、すでに今の時点であなたの人生は太宰治とは大きくかけ離れているとは思いませんか?」

「………」

「輪廻転生のサイクルとして、1982年に生まれたあなたは、太宰治の生まれ変わりの可能性はあります。ただ、はっきりと申し上げますが、あなたは太宰治の生まれ変わりではありません。あなたの人生が太宰治の人生と似通っていたのは、誕生日以外の部分で、あなたが太宰の生き方に合わせて人生の選択をしてきたからです。意識下に刻み込まれた強烈な印象によって、自分でも気づかぬうちに、太宰のような生き方を求めてきたのです」

しばらくすると彼は私の言葉にようやく重たい口を開きました。

「そうですね。きっとそうなのだと思います。私はどこかで太宰治のような破天荒な生き方にあこがれていた部分があったのだと思います」

彼は吹っ切れたように顔を上げて私を見ました。

「だから、あなたが来年、誰か女性と心中することはありません。あなたは太宰治の生まれ変わりではないのですから。もう、これからは太宰治の呪縛を離れて、あなたの足で幸せな人生を切り開いてください。あなたには心のつながっている妻子がいるのです。自分一人で頑張れないときは、あなたを信じて付いてきている人を意識してください。誰かのために頑張る気持ちはきっとあなたを強くするはずです」

私の言葉を聞いて、ようやく彼の顔に笑顔が戻りました。私はこの方の幸せな未来を確信して東京へ向かいました。

 


シュンさんのホームページ ここをクリック