私は家族の幸せな未来の中に、白い猫が一緒に浮かんだことを踏まえて、家の中でペットを飼うことを提案しました。

「ペットはきっとご家族の気持ちを癒してくれますし、お子さんたちもペットを飼うことで優しい気持ちを取り戻すのではないでしょうか。そしてペットが家の中にいることでご家族に共通の話題ができるはずです」

私は特に猫とは指定せずに、そう言って母親が好きな動物を飼うように勧めました。私はその際に、

「家族には一切相談をする必要はありません。ご自身で飼いたくなるようなペットが見つかれば独断で家に連れてくればよいです」

と伝えました。元々会話のない家族ですし、もし相談してネガティブなことを言われれば、気持ちは沈みます。さらに、

「家族はみんな自由勝手に振る舞っているのですから、あなただけが遠慮する必要はありません。飼いたいと思うペットを飼って、まずはあなた自身の心に癒しにつなげてください」

と背中を押しました。

 

するとしばらくして母親から連絡が入りました。

「ずっと猫を飼ってみたいと思っていたので、インターネットでペットショップや保護猫を検索していました。そのときに、カメラに向かって愛くるしい顔を向けている白い子猫と目が合いました」

というのです。画像を確認しているだけですから、目が合うはずはありません。それでも母親は目が合った瞬間に「猫の方が私を呼んでいた(選んでいた)」と感じたのです。そしてこの猫の里親を探している方の住所が、車で15分ほどの近所であったことにもご縁を感じて、すぐにこの子猫を引き取りに行きました。

 

母親が連れてきたのは真っ白な雌の子猫でした。母親は子猫のかわいい鳴き声から“ミュー”と名前を付けました。そして家のリビングの隣の和室にミューのトイレと水や食事の場所を作ったのです。帰宅した家族は家の中でかわいい鳴き声をだしている子猫にすぐに気づきました。この様子を見た家族は、それぞれが何か言いたそうにしていました。でも普段から口をきいていないので、今さらどう話したらよいのかもわかりませんでした。そのため

「猫飼ったの?」

「うん」

それで最初の会話は終わってしまいました。

 

しかし、時間の経過とともに家族の中に大きな変化が現れてきました。母親が買い物から帰ってくると、子供がミューの頭や体を撫でているのです。それでも母親と目が合うと、照れくさそうに自分の部屋へ戻っていきました。母親と何か言葉を交わすことはなくても、子供たちがミューをかわいがっていることは明らかでした。そしてさらに時間が経過すると、帰宅した子供が母親に話しかけるようになりました。

「あれ、ミューがいないけど、どこへ行ったの?」

母親は笑顔で答えました。

「お父さんの部屋のベッドの上でずっと寝てるわよ」

子供は黙って父親の部屋へ入っていきました。こうして会話のなかった家族の中で、ミューの話題だけは毎日、話されるようになっていきました。

 

父親も変わっていきました。まず、ミューが家に来てから、家にいる時間が長くなっていきました。そして夫婦の会話は相変わらず少ないものの、出張先から帰宅すると必ずミューにお土産を買ってくるようになったのです。それは魚や蒲鉾など猫が喜びそうなものばかりです。そしてそのことが家族の中にまた新しい話題を提供しました。

「お父さん、今日は伊豆へ行ったんだよね。今日はミューに何買ってくるんだろう。やっぱり干物かなあ。猫は干物食べるよね?」

こうしてミューが来てから家の中に、自然に会話が生まれるようになっていったのです。(4)へ続く。

 


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