動物には人間にない様々な能力があることはよく知られています。犬の嗅覚を利用して犯罪抑止や犯人逮捕に役立てている麻薬犬や警察犬は有名です。他にも大地震が発生する前に深海魚が浅瀬の定置網に引っかかったとか、クジラが数十頭も浜辺に打ちあがられたこともあります。普段まったく見ることのないカラスが集団でやってきて、一日中鳴き続けていたこともありました。実際、民間伝承ではなく大学や公的な水産試験場でも、ナマズと地震の関係を真面目に研究している人たちもいます。もし、動物が地震や災害を予知することができるなら、自分や自分の世話をしてくれている人間に災いが訪れるとき、それを知らせるような特異な行動を取ったとしても不思議ではありません。私の周りでもペットに助けられたとか、命を救われたという体験をした人が何人かいます。

 

ある男性は雨の日の夕方、会社から車で帰宅途中に一匹の小型犬に遭遇しました。赤信号で車を止めた時、隣にある公園を何気なく見た時に、段ボール箱の中から顔を出している小さな命に気が付きました。砂場の上を覆っているアーチ形の遊具の下に小さな段ボール箱がポツリと置かれていました。このアーチが雨を防ぐ屋根の代わりをしていましたが、子犬は寒さに震えながら精一杯の鳴き声を出して助けを求めていたのです。男性はいてもたってもいられずに、車を停めて公園へ走りました。すると子犬は力を振り絞って箱から抜け出すと、この男性にすり寄ってきました。段ボール箱の中には毛布が敷かれ、ドッグフードが置かれていました。無責任な飼い主が、生まれた子犬の面倒を見れなくなって、ここに捨てていったことは明らかでした。男性は子犬を抱えて急いで車に戻り、タオルでぬれた体を拭きながら、エアコンの温風で体を乾かしました。これがこの犬と男性との出会いでした。

 

それから家で飼うことにしたこの犬は男性にとてもよく懐いていました。朝、男性が出勤するときにはいつも玄関までお見送り来ます。そのあとはリビングの出窓に飛び乗って、男性の車が見えなくなるまで見守っています。そして夜、帰宅した男性の車のエンジンの音が聞こえると、すぐに玄関へ走って入ってきた男性に飛びつきます。この犬を飼ってからそんな幸せな毎日が始まっていました。

 

それがある日、男性がいつものように出勤しようと玄関まで来ると、犬は男性の足を抱きついて離れようとしません。男性の足首に爪が食い込むほどの強い力で男性の足を抱え込んでいます。それは今から外出しようとしている男性を行かせまいとして、必死で止めているようでした。男性は犬の様子がいつもと違うことが気になりました。しかし、だからと言って会社を休むわけにもいきません。男性は玄関で犬と5分ぐらい押し問答をしたあと、犬を無理に家の中に押し込んで車へ向かいました。

 

家を出て通いなれた通勤の道を走りだすと、いつもならすいている通りが渋滞していました。それも前方の車はぴたりと止まったまま全く動きません。それからすぐにサイレンの音が聞こえて、パトカーや救急車、消防車が前方へ向かっています。男性は気になって渋滞の列に車を止めたまま、前方の様子を確認に行きました。すると交差点に大型のトラックが横倒しになり、近くには激しくつぶれた乗用車が3台も止まっていました。その中の1台は中に人が閉じ込められているようで、消防のレスキュー隊が重機を使ってつぶれたドアをこじ開けていました。事故はまさについ先ほど起きていたのです。この道は間違いなく今日も自分が通る道です。もし、玄関で犬と押し問答をしていなければ、ピッタリこのタイミングで、自分の車がつぶされていてもおかしくありませんでした。男性は事故現場を見た後、このことに気づいて恐怖でその場に立ち尽くしました。

 

家でこの犬を飼い始めてから、出勤の時のお見送りで犬がこれほどぐずったことはありませんでした。これはとても偶然とは思えない出来事でした。男性はこの犬に命を救ってもらったと、深く感謝しました。(2)へ続く。

 


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