私はこの櫛を手にして、とても古い時代から脈々と続く持ち主の女性の怨念を強く感じました。そもそも櫛は「苦死」に通じるため、古来より呪術で用いられることがしばしばありました。この女性はこの櫛を見つけた時に「とてもきれいだ」と思って拾いましたが、それはまさに「苦死」拾ってしまったことになるのです。ですから櫛を拾うことは古来から縁起が悪いものとして忌み嫌われています。どうしても落とした櫛を拾わなければならないときには、一度、足で踏んでから拾うとよいと言われています。

 

「古事記」の中では、伊邪那岐命(イザナギノミコト)が黄泉の国から逃げ帰る際に、妻の伊邪那美命(イザナミノミコト)が差し向けた追手の黄泉醜女(ヨモツシコメ:黄泉の国にいる鬼女)に捕まりそうになりました。伊邪那岐命は櫛の歯を折って地面に投げつけたところ、そこからタケノコが生えてきました。黄泉醜女がおいしそうなタケノコに食いついている間に、伊邪那岐命は黄泉醜女から逃げ切ったと書かれています。また、昔は天皇が都を旅立つ皇室の少女を見送る儀式では、別れの櫛を自ら少女の髪に挿して別れの言葉をかけたと言われています。これらのことから、呪術の世界では櫛は別れを招く呪力を持っているとされていたのです。また、古代中国の呪術の中では、髪の毛にずっと櫛を入れないことで雨乞いができると信じられていました。さらにドイツの童話の中でも、櫛が女性の活動を一時的に停止できる(=気絶させたり、金縛りにする)黒魔術の道具として登場しています。つまり櫛は洋の東西を問わず、古来から呪術的な力のある特別なものとして考えられていました。

 

日本人形の髪の毛が伸びたとか、人形や絵画の中の人物が涙を流したということが時々報告されています。それは私から見ると、人の念(=強い思い)は物にも宿ることがあるということです。中でも櫛は特別なものですから安易に拾うことはやめてください。私に相談をした女性のように、きれいだと思って持ち帰った櫛が思わぬ不幸を自分や自分の大切な人たちにもたらしてしまうことがあります。

 

私はこの女性から拾った櫛を預かり、櫛に怨念を込めた古い時代の女性の霊と対峙しました。私が頭に浮かんだのは恋敵のような着物を着た女性から、酸のようなものを頭から掛けられてもがき苦しんでいる櫛の持ち主の女性です。

「熱い、熱い、顔が焼ける!」

屋敷の中には、この女性の断末魔の叫び声がこだましています。犯人の女は、この女性が髪を梳いているときに、後ろに隠れて、突然この液体を頭にかけたのです。液体をかけられた女性は、あまりの苦しさに持っていた櫛を思いっきり握り締めます。女性の手のひらには櫛の歯が食い込んで血が流れています。この液体はそれほどの苦しみを与えるものだったのです。そしてしばらくしてこの女性は鏡に映った変わり果てた自分の姿に絶望して亡くなりました。

 

この女性の恨みは並大抵のものではありません。自分が死んでから千年以上も経っているのに、自分を殺した犯人に霊的な波長が近く、同じように神の毛が長く、容姿の似た女性がいると、犯人と思い込んで復讐の刃を向けるのです。この櫛は死んだ女性の霊媒(=自分の代わり)になっています。ターゲットの女性を見つけると、わざと目に留まるように、目立つ場所に置いておきます。そしてこれを拾ってしまったら、二度と手放さないように強い念の力でターゲットを引き寄せます。その後は今、現実化しやすい不幸を次々に実現させて、ターゲットが死ぬか発狂するか、人生が破滅するまで追い込んでいきます。そこまでできた後は、また次のターゲットを探して、この櫛を拾うように、目に付くところに置いていくのです。

 

私はこの女性の魂が恨みを捨てて自分の死を受け入れて、今度は幸せな人生を生きるためにあの世へ上がるように諭していきました。マントラを唱えながら長い時間をかけてあの世へ上げて行きました。そしてこの櫛は供養のマントラを唱えながらお焚き上げをしたのです。一見きれいに見えるものが、実はものすごく強い怨念を抱いていることが時々あります。皆さんも出所の分からないものは不用意にもらったり、拾ったりしないように注意してください。そこにものすごく強烈な”罠”が仕掛けられていることがあるのです。

 


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