人間の肉体は細胞によって形作られています。そして細胞は常に再生されて新しい細胞に生まれ変わっています。たとえば脳であれば、早い細胞は1か月で約40%が入れ替わります。遅い細胞でも約1年ですべて入れ替わります。胃の粘膜は約3日ですべて入れ替わります。肝臓の細胞は早い細胞では約1か月で96%、遅い細胞でも約1年ですべて入れ替わります。筋肉は早い細胞では1か月で約60%、遅い細胞では約200日ですべて入れ替わります。4・5~5リットルの血液は100日から120日ですべて入れ替わります。骨は幼児期は約1年半、成長期は2年未満、成人は約2年半、70歳以上は約3年ですべて入れ替わります。肌は10代では約20日周期、30代では約40日周期、50代では約75日周期、60代では約100日周期ですべて入れ替わります。このように目で見て変化を確認できなくても、私たちの肉体は常に再生されているのです。そして再生を繰り返している人間が何歳まで生きていかれるのか。専門家は脳などの器官の寿命が120年ぐらいであることから、生命の限界はそれぐらいではないかと述べていいます。
先日、ガンで余命宣告を受けているという方から相談を受けました。その方は余命宣告を受けたことで、今まで意識してこなかった”死”というものが、リアリティを持って自分に迫ってきました。そして恐怖や不安で夜も眠れなくなって私に相談してきたのです。
「シュンさん、私がこの世界で生きていられるのはあと半年です。日に日に体が弱ってきているのは自分でもわかります。半年すると私の身体は機能を失い何をすることも考えることもできなくなります。そして私の身体は火葬場へ運ばれてそこで焼かれて消滅します。私にとって死は真っ暗闇の世界で、そこで思考も意識もすべてが終了して肉体と共に滅びます。そう考えると怖くて不安で仕方がありません。死後の世界は本当に存在するのでしょうか。するとすればどんな世界なのでしょうか」
確かに死によって今生きている自分がすべて消滅して終わりを迎えると思えば、「死にたくない」と考えることも当然のことでしょう。死を恐れずに隣国を征服した歴史上の権力者や独裁者は、最後には自分の死を恐れて”不老不死”の薬を探し求めたと言われています。
私はこの方に話しました。
「命あるものはすべて、いずれは死を迎えることになります。それは誰も逃れることのできない事実です。ただ、私は死によってすべてが消滅するとは考えていません。むしろ死は次に生きるためのスタートなのです」
「それはどういうことでしょうか」
この方は落ち着いて尋ねてきました。
「あなたは自分の思考や意識、そして自分の存在がこの肉体に宿っていると考えていますね。私はそうは考えていないのです。自分の思考や意識や存在自体は、肉体ではなく魂に宿っています。そして魂が肉体という容器を借りて生きているのです。ですから借り物の容器が壊れた後は、次にまた別の容器を借りてそこに宿るだけのことです。ですからあなたの存在は死を迎えたからといって消滅することはありません」
「………」
この方は私の言葉を何度も心の中で反芻していました。
「あなたがもし、人間を創造した神様だったら、千年間生きることのできる生命をどのようにして造りますか?それを肉体で達成しようとするならば、千年間も再生を繰り返し続ける”ハイパーボディ”を作らなければなりません。それは容易にはできないでしょう。それならば100年間生きていける器(肉体)を作って、その器が機能を停止した時には、別の器に乗り換える。それを繰り返した方が、難なく千年間生き続けることは出来るはずです。それが”輪廻転生”なのです。全知全能な神様だからこそ、そのように効率の良いシステムを作り上げたのだと思います。ですから死んでもあなたは消滅しません。やがて次の器を借り受けて、そこであなたは次の人生を生き続けるのです」
「………」
この男性は黙って私の言葉を噛みしめていました。ただ、その表情からは恐怖心がかなり薄れたように見えました。私は彼が半年後に旅立つとき、次の人生を楽しみに笑顔で上がっていくことを念じてこの方と別れました。