以前、「息子が突然失踪したので行方を捜してほしい」と頼まれたことがあります。同様の依頼は毎年3回~数回ぐらい頼まれます。状況も結果も人それぞれでさまざまです。上手く行方不明者の住まいまで突き止めて発見できることもあれば、家や勤め先の最寄りの駅まで突き止めて、付近の商店に協力してもらって見つけ出したこともあります。また、近くまでは接近できても、そこから先へ進む方向が感じ取れずに、そこで捜索を断念したこともあります。さらには捜索を断念したものの、それから何年か経ってその先の道筋がいきなり頭に浮かんで発見できたこともあります。そんな失踪者の捜索の中でも霊の問題が絡んでくると、非常に不可解な展開に流れていきます。今回お話しする捜索はまさにそんなケースでした。何と言っても”心霊スポット”へ出かけて行って、そこで失踪してしまったからです。
依頼者の息子さんは当時、都内のキャンパスへ通う大学生でした。夏休みに仲の良い男子学生が4人集まってワイワイと話しているうちに、
「これから心霊スポットへ行ってみよう」
という話になりました。車を持っている友人がいたため、4人でどこへ行くのか話しました。都内から車で出かけるとなると、関西や東北では距離が遠くてすぐに出発できません。結果的に都内や近県の中で心霊スポットとして頭に浮かんだのは富士山の麓にある“青木ヶ原樹海”で意見が一致したのです。
青木ヶ原樹海は、山梨県富士河口湖町と鳴沢村にまたがっている面積約30平方キロメートルの広大な森林です。地面は864年の富士山大噴火の際に流れ出た溶岩が冷えて固まり、その上に針葉樹や広葉樹の混合林である原始林が形成されています。周辺には”富岳風穴・鳴沢風穴”などの大きな溶岩洞が公開されています。溶岩流の端には西湖・精進湖・本栖湖があり、そこにはキャンプ場や公園が整備されています。樹海を通り抜けることのできる遊歩道も整備されていますから、富士山の景観を眺めたり、森林浴に来る観光客もいます。そんな人気観光地としての一面はありますが、青木ヶ原樹海と言えば、やはり”自殺の名所”として全国的に有名になっています。県や町を挙げて自殺の防止に努めているものの、年に何回か行われている樹海の中の捜索では、毎年100名を越える自殺者のご遺体が発見されています。中にはご遺体を見たくて樹海の中に入り込む人もいます。
ただ、注意しなければならないのは、遊歩道や案内看板がある範囲なら良いのですが、そこから森の中へ入り込んでしまうと、いきなり方向感覚がつかめなくなります。それは溶岩が固まった地面はデコボコして足場が悪く、まっすぐに歩いているつもりでも実際には曲がりながら進んでいることが多いのです。さらに樹海の中は高低差が無く周囲を360度見回しても樹木しか見えません。特徴や目印の無い景色の中では出口の方向を見つけることがとても困難になります。以前は溶岩でできた地面は磁鉄鉱を多く含むために、方位磁石が機能しなくなって、進む方向を見失うと言われていました。しかし実際には磁鉄鉱によって方位磁石が狂う範囲は、1度から2度がせいぜいで大きく狂うことはありません。ですから方位磁石を持参していれば、方向を見失うことはありません。また俗説で言えば、デジタル時計が狂うとか、車の計器やGPSが誤作動するとも言われていました。しかし実際は地面に広がっている磁鉄鉱はそこまで強力な磁力を発しているわけではありません。今では携帯電話事業者の基地局も設置されていますから、密生した樹木に電波が遮られない限りは、スマホもつながりやすくなっています。
そうやって物理的には安全な場所になっていったとしても、毎年100人からの人がこの深い森の中で報われない思いを抱きながら命を絶っているのです。その森の中に足を踏み入れることは、私から見ればまさに”自殺行為”に他ならないのです。(2)へ続く。