会社で係長が部下のいる前で課長から怒鳴られています。
「お前、何年仕事してるんだ、全然仕事になってないじゃないか。仕事をしないなら会社に来るな、給料が無駄だ、もう明日から出社しないで良いから」
課長の怒鳴り声にオフィスの中は静まり返りました。係長は黙ってうつむいています。近くにいる部下たちは係長の気持ちを思ってみんな目をそらしています。
「係長もきついだろうなぁ、部下の前であそこまで言われちゃうとねぇ…」
翌日、誰もがそう思いながら、出勤してきました。すると当の係長がへらへら笑いながらオフィスに入ってきました。
「うぃ~す、昨日のドッキリ見た?ウケたよね、オレ腹抱えて笑っちゃったよ」
あまりに脳天気な係長の言葉を聞いて、部下たちはみんな唖然としました。係長はさらに話を続けます。
「しかも、今日地下鉄に乗ってたらさ、前に座っているオジさんの顔が、昨日のドッキリを食らった芸人にそっくりでさ、思わず声を出して笑いそうになって、足を思いっきりつねって我慢したんだよ」
そう言うと係長は声を上げて大笑いを始めたのです。静かな朝のオフィスの中に係長の笑い声が響きました。
するとそこに昨日、係長を怒鳴った課長が入ってきました。一瞬でオフィスの空気が緊張しました。係長は慌てて笑いを止めると、何事も無かったように
「おはようございま~す」
と声を出しました。課長は係長に一瞥をくれた後、
「おはよう」
と一言言って自分の席に座りました。
私はこの係長のような人が一番強いと思います。誰に何を言われても全く動じません。落ち込んでもすぐに気持ちの切り替えができて引きずりません。どんな状況でも楽天的で笑って過ごしています。きっとこれから課長がどれだけ係長を怒鳴り続けても、係長はまったく気にせずに、何も改善せずに今まで通り自分のペースで仕事を続けていくのでしょう。そして最後は課長が根負けして、もう何も言わなくなります。
私は彼女に言いました。
「周りの人が自分を攻撃しているとか、ネガティブな思いを持っていると感じても、それに負けない強い自分を作ろうとはしないでください。力に対して力で対抗しようとすれば、ものすごくエネルギーを消耗して最後は枯渇してしまいます。そして心が折れてしまうのです。自分にどれだけ強い力が向けられたとしても、自分がそれを正面から受け止めないで、流したり、すかしたり、いなしたりしていれば、それは自分に何のダメージも与えません。そして自分は何ら消耗することも無いのです。これが最も効率の良い対処方法です」
彼女は私に質問しました。
「それでも相手の表情が目に入ったり、相手の言葉が耳に入れば、その思いを感じて落ち込んでしまいます」
私はさらに話しました。
「それでしたら目線を遮断して耳をふさいでください。何も見えず、何も聞こえなければあなたの心が傷つくことも動揺することもありません」
「そんなことできるのでしょうか」
私はゆっくりと話しました。
「よく目の前で話しているのに、人の話をちゃんと聞かずに注意される人がいます。相手の目の前にいても、気持ちが(意識が)相手に向いていなければ、相手の言葉は耳に入りません。それを練習してください」
私に相談される人の中でも、敏感すぎる人の方が、鈍感すぎる人よりも悩みを抱えることは圧倒的に多いのです。良い意味で鈍感力を身に付けることは、他人に左右されずに楽に生きていく上で、重要なポイントになっているように思います。