ここまで問題が大きくなり、マスコミでも注目されるようになると、さまざまな人間がこの団地にやってきました。週刊プレイボーイの記者は怪現象が多発している部屋に泊まり込んで体験ルポを敢行しました。記者が室内にセットした収音マイクは深夜に壁を叩く音を拾っていました。また、室内の様子を撮影しようとしたもののカメラのシャッターが突然切れなくなりました。このとき編集部の依頼で現場を鑑定したイタコの中村裕美さんは、
「ドアの前に白髪で髪が短く目の大きな老人が立っている」
と答えました。
さらにテレビ局では特集が組まれ、建築の専門家や自然科学に詳しい大学教授や霊能者の織田無道さんや江原啓之さんがこの住宅を訪れました。日本音響研究所の鈴木正美所長は、怪現象の原因を「ウォーターハンマー説」と指摘しました。ウォーターハンマー説とは、水道管の中が高圧になっていると、どこかの部屋でトイレや風呂で水を使った時に、管内の圧力が瞬間的に下がり、それを押し戻す力が働く。この際に管内の圧力の変化により、”定在波”と呼ばれる波が発生する。この定在波によって”カンカン””トントン”と言った怪音が発生したり、水道やシャワーから勝手に水が流れ出すことの説明が付くというのです。しかし、それでは食器棚から飛んで行ったお皿やガスコンロの火が勝手に点くことの説明にはなりません。名古屋大学の電気工学の専門家「大熊繁教授」は、コンセントが抜けているのに勝手に作動したドライヤーについて、
「ドライヤー内部のコンデンサーに残っていた電気によって誤作動した」
と語りました。しかし、それでは壁に留めていた画鋲が弾け飛んだり、方位磁石がグルグルと回転することの説明にはなりません。
そしてマスコミの報道が過熱するにしたがって、全国から自称霊能者や宗教団体が次々にやってきました。四国から来たという霊媒師を名乗る数名の男たちは、自治会長宅に押しかけて、住民を集会場に集めるように指示しました。そして集まった住民を前に
「私には数百体の霊が見える。ほら、そこにも。ここにも」
と、そう言って恐怖を煽りました。そして怪現象の原因について、
「ここは数百年前は処刑場で、殺された数多くの魂が今でも苦しんでいる。そして殺された者たちの墓は、やがて倒れ、今は土に埋まっている」
と話しました。そして、
「大規模なお祓いをしないと、この現象は収まらない」
と話し、百万円単位でのお布施を要求したのです。そして、各部屋の入り口のドアには、誰が貼ったとも知れない怪しげな呪文の書かれたお札が貼られていったのです。結果的にこの住宅にやってきた霊能者や宗教団体は、10組30人以上になり、置いて行った名刺の数は300枚以上になったのです。
織田無道さんや江原啓之さんなど、霊能者たちが語った怪現象の原因は次のようなものでした。
1:近くの森の氏神様の祠にある霊道を建物がふさいでしまったため。
2:手裏剣で殺された忍者の霊の仕業
3:戦国武将や雑兵の霊が徘徊してポルターガイスト現象を起こしている。
4:黒い三角の傘をかぶった鉄砲隊の霊の仕業
5:コレラで死んだ何千頭もの牛豚の霊の仕業
6:自分で作った刀によって試し斬りされた刀鍛冶職人の怨念
7:二人のポルトガル人宣教師の霊の仕業
8:水子の祟りである
9:織田信長の息子の祟りである。
10:冤罪で処刑された男の怨念である。
ほとんどの回答は創造の産物で、とてもまともな霊能者の見解とは思えません。この世界にはお金を稼ぐことを目的にしたインチキ霊能者が多いことも確かです。ただ、同じ問題についての霊能者の答えが、これほどまでにかけ離れてしまうことも事実なのです。